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静岡新聞ネット版H27.7.2付き記事によれば,静岡県内のとあるゴルフクラブへの入会を希望した女性が,性同一性障害により男性から女性へ性別変更をしていたことを理由に入会(及びゴルフクラブ経営会社の株式譲渡承認)を拒否されたため,ゴルフクラブを相手どって慰謝料等の支払いを求めた裁判で,この女性の訴えを認めて110万円の支払いを命じた一審静岡地裁浜松支部に続き,二審東京高裁も損害賠償を認めた,ということです(なお,この裁判では,女性が経営する会社も原告となり,また,ゴルフ場を経営する会社も被告となっていますが,詳細は割愛します)。
二審控訴審の判決文はまだ公開されていないようなので,一審静岡地裁浜松支部の判決文を参照すると,原告となった女性は,ゴルフクラブ側が「性別の変更」を理由に入会を拒否したことは,「平等原則を定める憲法14条1項や市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権B規約」という。)26条,性同一性障害者の治療効果の向上や社会的不利益の解消を目的とする特例法等を内包する公序良俗に反するから,社会的に許容しうる限界を超え違法」と主張しました。
これに対しゴルフクラブ側は,「被告らには,憲法21条1項により結社の自由及びこれに基づく構成員選択の自由が保障されている。」,「既存会員の不安感や困惑,競技会での混乱等により被告クラブが50年以上かけて築き上げてきた伝統や会員の一体感の喪失という深刻な不利益が発生する事態を回避すべく,アンケート結果に表れたような会員の意向を慮って本件入会拒否をし」た,と主張して争いました。
ところで,原告は憲法14条1項の定める「法の下の平等」をあげていますが,国際人権B規約等にもふれつつ,さらに,「公序良俗に反するから,社会的に許容しうる限界を超え違法」と主張しています。
このような一見すると二段構えのようにみえる構成になっているのは,憲法の保障する権利(人権)は,基本的に「国家対個人(私人)」の関係を規律するものであり,「私人対私人」との関係では,直接にこれを規律する根拠にはならないという考え方がとられているからです。
つまり,例えば,A県に住んでいる日本国民には税率100%の所得税を課し,B県に住んでいる日本国民は所得税非課税としたような場合,これは「国家対個人(私人)」との関係で不平等が生じていることになるので,直接に憲法を根拠として争うことができます。
しかし,今回のゴルフクラブ入会拒否のように,私人と私人との間で平等をめぐる問題が生じたような場合は,憲法を直接の根拠として私人の行為が違法かどうかを判断することはできず(つまり,「憲法14条1項に反して違法」というような言い方はできない),損害賠償責任を負わせるべき違法なものかどうかを判断するに際しての,ひとつの要素として憲法をとらえるということになります。
判決文ではこれを「私人間の権利衝突が問題となる場合,私的自治の観点からしても,私人相互間の関係を直接規律するものではない憲法や国際人権B規約の規定が直接適用されるものではないが,私人の行為が看過し得ない程度に他人の権利を侵害している場合,すなわち,社会通念上,相手方の権利を保護しなければならないほどに重大な権利侵害がされており,その侵害の態様,程度が上記規定等の趣旨に照らして社会的に許容しうる限界を超える場合には,不法行為上も違法になると解するのが相当である。そして,憲法14条1項や国際人権B規約26条は,上記不法行為上の違法性を検討するに当たっての基準の1つとなるものと解される。」といっています。
「社会的に許容しうる限界を超える」かどうかが,ポイントになるわけですね。
そして,一審静岡地裁浜松支部は,「医学的疾患である性同一性障害を自認した上で,ホルモン治療や性別適合手術という医学的にも承認された方法によって,自らの意思によっては如何ともし難い疾患によって生じた生物的な性別と性別の自己意識の不一致を治療することで,性別に関する自己意識を身体的にも社会的にも実現してきたという原告X1の人格の根幹部分をまさに否定したものにほかならない」ものであり,「精神的損害は,看過できない重大なものといわざるを得ない。」としました。
ゴルフクラブ側の入会拒否を,「人格の根幹部分をまさに否定した」とかなり強く批判しています(さらに裁判所は,原告「・・・の不利益が単に反射的・経済的なものに留まると考えることは,広く社会に対し,性同一性障害という疾患ないしその治療行為を理由とする不合理な取扱いを助長し,さらには,性同一性障害を患う者に対して,その疾患の自認及び治療行為を躊躇させるなどという,当裁判所が到底許容できない事態を招来しかねない。」とまで述べています)。
なお,この裁判でゴルフクラブ側は「性同一性障害者(性転換者)の入会は,会員(特に女性会員)がロッカールーム,浴室等を使用する際などに不安感を抱き,また,クラブ競技の出場資格などに疑義を生じ,親睦,交流のクラブ目的に反する結果となる。50年以上皆で築いてきたクラブの親睦,交流の一体感を傷つけたくない」などと主張したようですが,原告が「戸籍のみならず声や外性器を含めた外見も女性であったこと」,(原告が)「女性用の施設を使用した際,特段の混乱等は生じていないこと」からすれば,「被告らが危惧するような事態が生じるとは考え難い」,「被告らが主張する不利益も抽象的な危惧に過ぎない」として,ゴルフクラブ側の反論を認めませんでした。
前回アップした記事「同性婚について2 アメリカ合衆国連邦最高裁判所が,同性婚を認めないことは違憲と判断」でも書きましたが,私は,本件のような入会拒否は,法の下の平等だけでなく,憲法13条が保障する「幸福追求権」の点からも妥当でないと思います。
よく実態を知らないまま抽象的に不安感を抱いたり,自らの価値観と相容れないからといっていたずらに嫌悪することは,結果として,その社会を窮屈に,息苦しくさせるのではないでしょうか。
日本社会は同調圧力の高い社会ですから,常に意識していないとたやすく少数派の人々が抑圧されてしまうのではないかと思いますが,あなたはどのように考えますか?
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弁護士 櫻町直樹
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先日アップした「同性婚について」という記事に,「アメリカ合衆国においては,同性婚が憲法上保障された権利であるかどうかについて,近く,連邦最高裁判所の判断がなされるようです」と書きましたが,アメリカ合衆国連邦最高裁判所(以下「連邦最高裁)は,同性婚を認めないことは違憲である,と判断したそうです(日本経済新聞H27.6.26付き記事など)。
連邦最高裁ウェブサイトに掲載されている判決によれば,ミシガン州,ケンタッキー州,オハイオ州及びテネシー州に居住する14組の同性カップル及び(同性のパートナーを亡くした)2人の男性(以下「原告ら」が,原告らに「結婚する権利」あるいは「他の州では認められている合法的に結婚する権利」を認めないことは,アメリカ合衆国憲法修正14条(以下「修正14条)に違反している,として訴えを提起しました。
修正14条(在日アメリカ大使館ウェブサイトより)
第1項 合衆国内で生まれまたは合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民で あり、かつ、その居住する州の市民である。いかなる州も、合衆国市民の特権または免除を制約する法律 を制定し、または実施してはならない。いかなる州も、法の適正な過程*によらずに、何人からもその生命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否 定してはならない。*修正第5 条の注参照
第2項(略)
第3項(略)
第4項(略)
第5項(略)
各地裁は原告らの訴えを認めましたが,第6巡回区控訴裁判所がこれを覆したため,原告らは連邦最高裁の判断を求めました。
そして,連邦最高裁は「5対4」という僅差ながら,原告らに「結婚する権利」あるいは「他の州では認められている合法的に結婚する権利」を認めないことは,アメリカ合衆国憲法修正14条に反して違憲である,としたのです。
連邦最高裁は,修正14条は州に対して「同性間の結婚を許可すること」,「州外(他の州)において合法的に許可された同性間の結婚について認めること」を要請している,と述べました(The Fourteenth Amendment requires a State to license a marriage between two people of the same sex and to recognize a marriage between two people of the same sex when their marriage was lawfully licensed and performed out-of-State.)。
連邦最高裁はその理由(のひとつ)として,「結婚する権利は,個人の自由に内在する根本的なものであり,修正14条が定める適正手続及び法の平等な保護のもと,同性のカップルもこうした権利・自由を奪われてはならない(The right to marry is a fundamental right inherent in the liberty of the person, and under the Due Process and Equal Protection Clauses of the Fourteenth Amendment couples of the same-sex may not be deprived of that right and that liberty. )ということを挙げています。
また,ウォールストリートジャーナル(日本版)は,連邦最高裁がこのような判断した背景には,「同性愛」あるいは「同性婚」に対する社会の見方が大きく変化したことがある,としています(H27.6.27付き「米最高裁の同性婚容認までの急速な世論の変化」)。
上記記事では,連邦最高裁の法廷意見(the opinion of the Court)を書いたケネディ判事のコメントとして,「ケネディ判事は「20世紀後半になり、大きな文化的、政治的な動きにつれて同性のカップルがこれまで以上にオープンな生活を送り、家族を作り始めた」と指摘。同性愛者の権利に関する問題が裁判所に持ち込まれたのは「政府と民間の両方でこの問題についての議論が非常に広く行われた」からであり、「寛容な方向に国民の姿勢が変化した」からだと述べた。」と紹介されています。
翻って日本では,「夫婦別姓を認めないこと」(と「女性の待婚期間(再婚禁止期間)」)が憲法に違反するか否かについて,年内にも最高裁の判断が示される模様です(日本経済新聞H27.6.25付き記事「再婚禁止と夫婦別姓、大法廷で11月に弁論 最高裁 」)。
誤解されがちなのは,「夫婦別姓」といっても,法制審議会(法律の改正について審議する法相の諮問機関)が平成8年に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において提言されたのは,結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める「選択的夫婦別姓制度」であり,「必ず別姓でなければならない」というものではありません。
日本国憲法13条は,「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と,「個人の尊重」を謳っています。
「姓」は,(異論があるかもしれませんが)個人のアイデンティティを成す要素のひとつであり,「結婚に際して変更しなければならない」(しかも,女性の側が変更することが圧倒的多数。厚生労働省「平成18年度「婚姻に関する統計」の概況」の「(3)夫の氏・妻の氏別婚姻」によれば,平成17年に結婚した夫婦の実に96.3%が夫の姓を選択している)というのは,憲法13条に違反すると考えるべきではないかと思います。
ちなみに,国立社会保障・人口問題研究所が調査・発表した「第5回全国家庭動向調査」(平成26年8月)によれば,「夫,妻とも同姓である必要はなく,別姓であってもよい」という調査項目に対する賛成割合は「41.5%」となっています。
上記調査結果からすると,夫婦別姓は時期尚早でありまだ導入すべきでない,という意見がでてくるかもしれません。
しかしながら,「個人として尊重される」ということは,多数決に馴染まない(むしろ,憲法上の権利(人権)として保障されることの最大の意味は,法律=多数の意思によっても奪われることがない,というところにあります)ものです。
最高裁の積極的な判断を期待したいところです。
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先頃,東京都渋谷区が同性婚カップルに「パートナーシップ証明書」を発行すること等を内容とする条例を制定したとの報道がありました(日本経済新聞H27.3.31付き記事など)。
この条例は,「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」といい,「パートナーシップ」とは,「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係をいう。 」と定義されています(条例2条8号)。
また,「パートナーシップ証明書」の発行に際して,区長は以下事項を確認するものとされています(条例10条2項)。
(1)当事者双方が,相互に相手方当事者を任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)第2条第3号に規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契約に係る公正証書を作成し,かつ,登記を行っていること。
(2)共同生活を営むに当たり,当事者間において,区規則で定める事項についての合意契約が公正証書により交わされていること。
条例前文は,「日本国憲法に定める個人の尊重及び法の下の平等の理念に基づき,性別,人種,年齢や障害の有無などにより差別されることなく,人が人として尊重され,誰もが自分の能力を活かしていきいきと生きることができる差別のない社会を実現することは,私たち区民共通の願いである」という宣言から始まり,「区,区民及び事業者が,それぞれの責務を果たし,協働して,男女の別を超えて多様な個人を尊重し合う社会の実現を図り,もって豊かで安心して生活できる成熟した地域社会をつくることを決意し,この条例を制定する。」と結ばれています。
この条例に対しては,「憲法24条に違反している」との批判もされているようですが,憲法24条の規定から直ちに「憲法は同性婚を認めていない」という結論を導くことは難しいように思われます。
というのは,明治民法(明治31年6月21日法律第9号)においては,婚姻に際して「戸主」の同意が必要(法750条:家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ爲スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス)であるなど,個人の自由意思に基づく婚姻(及び家族の形成)が制限されていたこと,また,男性が女性より優位におかれていたこと等の状況に鑑み,現行日本国憲法において24条が規定されたと考えられているからです。
このことは,GHQが作成した日本国憲法草案(国立国会図書館ウェブサイトに掲載されています。)における,”instead of parental coercion, and maintained through cooperation instead of male domination.”(両親ノ強要ノ代リニ相互同意ノ上ニ基礎ツケラレ且男性支配ノ代リニ協力ニ依リ維持セラルヘシ)という表現にもあらわれていると言えると思います。
条例前文にもあるように,憲法第13条が「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と「個人の幸福追求権」を謳っていることからすれば,現行の社会制度において不利益を被っている個人がいるならば,その不利益を解消しようとする試みは,憲法に合致していると言えるのではないでしょうか(なお,憲法13条には「公共の福祉に反しない限り」として,憲法上の権利(人権)といえども制限されうることを認める表現がありますが,「公共の福祉」という概念は曖昧・不明確であり,人権の制約原理として適切でないという指摘(例えば,国連自由権規約委員会による「日本の第6回定期報告に関する最終見解」など)がされているところです)。
ちなみに,アメリカ合衆国においては,同性婚が憲法上保障された権利であるかどうかについて,近く,連邦最高裁判所の判断がなされるようです(朝日新聞H27.5.9付き記事。※全文の閲覧には会員登録が必要です)。
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以前,「ご当地ナンバー」という記事を当ブログに投稿しましたが,朝日新聞デジタル版H26.10.29付き記事によれば,世田谷ナンバーの導入に反対する区民の方が,世田谷区及び保坂展人区長を相手取り,プライバシー侵害等を理由とする損害賠償請求訴訟を提起したそうです。
上記朝日新聞記事では,「「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益や,住居地を特定されることでプライバシーや平穏な生活が侵害される」と主張」と報道されていますが,さて,こうした主張について,裁判所はどう判断するのでしょうか。
訴訟において請求が認められるためには,前提として,原告(本件では世田谷区民の方)が主張する利益が,「法律上・契約上,認められている・合意されている」,あるいは(明文の法律がなくても)「法的保護に値する」ものである必要があります。
その点からいえば,「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益」については,心情的なものとしてはともかく,「法的保護に値する」といえるかというと,なかなか難しいのではないかと思います。
また,後者について,「プライバシー」という言葉が使われていますが,私的な事柄であればなんでもプライバシーとして法的保護の対象になるわけではなく,「一般の人々の感覚に照らして,公表されることを欲しない情報である」といった一定の条件(要件)が満たされていなければ,プライバシーとしての法的保護を受けることができません。
乗っている車のナンバーから,「あの車に乗っている人は世田谷区民である」と第三者に知られる(特定される)ことが,はたして,一般の人々の感覚に照らして望ましくないと判断されるものであるかどうか,こちらも,なかなか難しいのではないかと思います(また,プライバシーとして保護されるには,「一般の人に知られていない」ということも必要ですが,車両ナンバーはもともと公表といいますか,ナンバープレートに記載され周囲の人が認識できることを前提にしていますから,この点からしても難しいのではないかと思います)。
さて,どうなりますことやら。
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余談ですが,この訴訟に対して,保坂区長は「訴状が届いていないため,内容を確認でき次第コメントしたい」と述べたそうです(上記朝日新聞記事より)。
「訴状が届いていないため・・・」に続くフレーズは「・・・コメントできない」となるのが一般的ですが,内容を確認次第コメントするという保坂区長の姿勢は,(特に政治家という公的な立場にあることを考えると)異彩を放っていますね。
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末期癌のため余命6か月と宣告された女性が,11月1日,医師から処方された薬物を服用して「安楽死」したとの報道がありました(朝日新聞ネット版H26.11.3付記事など)。
この女性,ブリタニー・メイナード(Brittany Maynard)さんは,脳にできた末期癌のため余命6か月と宣告された後,それまで住んでいたカリフォルニア州から,安楽死が法律(Death with Dignity Act)で認められているオレゴン州に移り,そこで死を迎えたそうです(The Washington Post “Brittany Maynard, as promised, ends her life at 29″ by Lindsey Bever, Nov. 2, 2014 )。
オレゴン州のDeath with Dignity Actは,そのまま日本語に訳せば「尊厳ある死についての法律」といったものになり,「尊厳死」について定めたもののようにみえますが,法律の内容をみると,医学的に治療・回復不能であり,余命6か月(以内)と診断された終末期の患者に対し,(当該患者の申請に基づき)医師が致死性の薬物を処方するための要件・手続等を定めたものになっていますので,直截に「自殺幇助法」と訳しているケースもみられます。
なお,Death with Dignity Actが認めているのは,医師に処方された薬物を患者自身が服用するという方法による死であり,医師が患者に薬物を注射して死に至らしめること(euthanasia)は,オレゴン州においても禁止されています(Frequently Asked Questions, Q: Does the Act allow euthanasia?)。
そして,オレゴン州の統計によれば,Death with Dignity Actに基づき,医師から薬物を処方され,これを服用して死亡したオレゴン州民の人数は,平成25(2013)年において71人(処方された人数は122人)であり,同法が施行された平成9(1997)年からの累計死亡者数は752人(処方された人数は1173人)となっています。
ブリタニーさんの件が注目を集め,日本でも報道されたのは,彼女が,Death with Dignity Actのような法律を他の各州も制定すべきという運動をしていた(米国内において,Death with Dignity Actのような法律が制定されているのは,オレゴン州を含め5州のみ),今年10月に動画投稿・配信サイト「you tube」に投稿された動画が大きな反響を呼んでいた,29歳という若さであった(オレゴン州においてDeath with Dignity Actに基づき安楽死を選択した人の平均年齢は71歳(69%が65歳以上,最年少で42歳。平成25年データ)),などの事情があったからかと思われます。
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日本においては,刑法202条に「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。」という規定がありますので,自殺を望んでいる者に致死性の薬物を渡すことは,自殺幇助罪にあたる可能性があります。
米国内においても,Death with Dignity Actに反対する意見は根強いようですが,はたして,日本において自殺幇助が合法化される日はくるのでしょうか。漠然とした印象に過ぎませんが,日本ではどちらかと言えば,延命治療を拒否する,いわゆる「尊厳死」に関心が集まり,安楽死(及びその合法化)についてはあまり議論がなされていないように思われます。
関連エントリ:「安楽死の年齢制限撤廃:ベルギー」,「自己決定権と胎児の命」
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非常に長いタイトルとなってしまいましたが,平成26年10月23日,最高裁判所は,妊娠中の労働者を軽易な業務へと配置転換するにあたり,転換を契機として当該労働者を降格させることは,原則として男女雇用機会均等法(以下「均等法」とします)9条3項が禁ずる「不利益な取扱い」にあたるとの判断を示しました(最高裁判所平成26年10月23日判決。以下「本判決」とします)。
均等法9条3項:事業主は,その雇用する女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働基準法第65条第1項 の規定による休業を請求し,又は同項 若しくは同条第2項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として,当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
本判決でも指摘されているように,厚生労働省が定める「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」(厚生労働省告示第614号)においては,「(均等)法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは,例えば,次に掲げるものが該当する。」として,
イ 解雇すること。
ロ 期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと。
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に,当該回数を引き下げること。
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
ホ 降格させること。
と,「降格」が不利益な取扱いの一例として挙げられています。
また,均等法施行規則2条の2第6号においては,均等法9条3項の「妊娠又は出産に関する事由」について,「労働基準法第65条第3項 の規定による請求をし,又は同項 の規定により他の軽易な業務に転換したこと。」と規定されています。
以上のような法令等の規定ぶりからすれば,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたるとした本判決は,至極妥当と思われます。
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しかし,私は,本判決のポイントはむしろ,一定の要件を満たす場合には,妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させることが,例外的に均等法9条3項の禁止する不利益な取扱いにあたらない,という判断が示された点にあるのではないか,と考えています。
すなわち,上でみた法令等の規定からは,妊娠中の軽易業務への転換を契機とする降格が例外的に認められる場合がある,という解釈は導かれないように思われるのですが,本判決は,1)「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」,または,2)「事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」は,例外的に降格が許される,としました。
最高裁判所がこのように判断したのは,法律を厳格に適用した場合には,企業(特に規模が小さい場合)の事業活動に支障が生じる事態も考えられることから,一定の要件を満たす場合には降格が不利益な取扱いにあたらないとすることによって,「労働者の権利保護」と「企業の円滑な事業活動」とのバランスを取ろうとした結果なのではないか,と思われるのです。
さらに,最高裁判所が均等法9条3項を「強行規定」であるとしながら,一定の要件を満たす場合には降格が無効にならない,とした点にも疑問が残ります。
なぜなら,ある条項が「強行規定」であるという場合,たとえ当事者の合意があったとしても,当該合意が有効とされることはないからです(例えば,禁止薬物の売買など)。
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もちろん,本判決が,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたると判断したこと自体は,妊娠している労働者に対する不当・不利益な処遇(いわゆる「マタハラ」)の横行に一石を投じるものであり,非常に価値ある判断だと思いますが,真に労働者の権利が保護されるためには,本判決が示した例外要件について,これらが安易に認められないようにしていくことが重要になってくるのではないかと思います。
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弁護士 櫻町直樹
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H28.6.4追記
以下のケースは最高裁に上告がなされており,昨日(H28.6.3),最高裁の判断が出たのですが,最高裁は「花押は印章による押印と同視できず無効」と判断しました(毎日新聞H28.6.3付き記事(http://mainichi.jp/articles/20160604/k00/00m/040/071000c)など)。
一審及び控訴審が,「遺言者の同一性・真意の確保」と「文書完成の担保」という,印章(印鑑)による押印を必要とした趣旨(実質)を重視して花押の有効性を認めたのに対し,最高裁は,「印を押さなければならない」という条文(形式)を重視して,花押では要件を満たさず無効と判断したといえましょう。
民法968条「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」
条文の文言を厳格に解釈し,法的安定性・予測可能性を重視するか,あるいは,事案毎の妥当な解決を重視し,文言を柔軟に解釈するか,難しい問題です。
(ここまで)++++++++++++
日本経済新聞電子版H26.10.24付記事が,「遺産相続の遺言書に使われる「印」の代わりに,戦国武将らのサインとして知られる「花押」の使用は有効かどうかが争われた訴訟の判決で,福岡高裁那覇支部は24日までに,印と認定できると判断した一審・那覇地裁判決を支持し,遺言書を有効と認めた」と報じていました。
民法においては,「自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。」と規定されています(968条1項)。
「印」とは,印鑑(ハンコ)のことですから,印鑑による押印ではなく花押が使われていた上記ケースでは,民法の規定に反する無効なものではないか,という争いが生じたわけです。
【民法960条】
遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,することができない。
しかしながら,上記福岡高裁那覇支部判決(及びその一審である那覇地裁判決)は,花押も「印」にあたるとして,遺言は有効であると判断しました。
民法の文言に厳格に従えば,「印」という言葉が意味しているのは「印鑑」なのだから,それ以外は認められるべきでない,ということになりそうですね。
実は,上記判決から遡ること四半世紀,遺言書に「指印」が押捺されていたというケースで,最高裁は「右にいう押印としては,遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨,朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である」という判断を示しています(最高裁平成元年2月16日判決民集43巻2号45頁)。
そして,指印による押捺が「押印」として認められる理由については,民法が「押印」を要件とした趣旨を「遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにある」と解釈した上で,「指印をもって足りると解したとしても,遺言者が遺言の全文,日附,氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし,いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については,通常,文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと,文書の完成を担保する機能においても欠けるところがない」としました。
つまり,遺言書に「押印」が必要なのは,「遺言者の同一性・真意の確保」と「文書完成の担保」にあるのだから,それらが満たされるのであれば印鑑による押印に限られないのであり,「指印」はそれらを満たしている,としたのです。
ちなみに,「同一性の確保」については,「指印については,通常,押印者の死亡後は対照すべき印影がないために,遺言者本人の指印であるか否かが争われても,これを印影の対照によって確認することはできないが,・・・,印章による押印であっても,印影の対照のみによっては遺言者本人の押印であることを確認しえない場合があるのであり,印影の対照以外の方法によって本人の押印であることを立証しうる場合は少なくないと考えられるから,対照すべき印影のないことは前記解釈の妨げとなるものではない」としています。
本件における「花押」が,自己と他人を区別する符号として用いられ(自署され),文書の最後に記されていたという場合には,「遺言者の同一性・真意の確保」と「文書完成の担保」のいずれも満たすものであるから,押印と認めることができる,という結論が導かれそうです。
上記日経新聞記事によれば,那覇地裁は(遺言者である)「男性がこれまでも花押を使用してきたと指摘。印鑑より偽造が困難である点を踏まえ「印と認めるのが相当」と判断した」(福岡高裁那覇支部もこれを維持)ということですから,上記最高裁判決が示した判断(基準)に沿ったものとして,妥当であろうと思われます。
もっとも,法律が求める要式にきちんと従うに越したことはないのであり,自筆証書遺言書を作成する場合には,実印で押印をしておくのが無難でしょう。
ちなみに,「鶴川流花押」というウェブサイトには,歴史上の人物や政治家などが用いた花押が掲載されていますが,デザイン性もあってなかなか面白いです。勝海舟の花押(こちらの124)なんか,毎回ちゃんと同じように書けるのか,という気がしますが…。
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弁護士 櫻町直樹
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新宿のキャバクラ店で,客の男性に「金払えなかったら(拳銃で)はじかれるぞ」などと言って飲食代金約63万円(!)を請求したという都ぼったくり防止条例違反の疑いで,キャバクラ店経営者等が逮捕されたとの報道がありました(日本経済新聞ネット版H26.10.11付き記事)。
ぼったくり防止条例は,正式な名称を「性風俗営業等に係る不当な勧誘,料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例」といい,平成12年に東京都で制定されたのを皮切りに,北海道,大阪府,福岡県等において制定されています(条例の名称は各都道府県によって若干異なります)。
都の条例では,「何人も,特定の指定性風俗営業等の客に対し,粗野若しくは乱暴な言動を交えて,又はその者から預かった所持品を隠匿する等迷惑を覚えさせるような方法で,当該営業に係る料金又は違約金等の取立てをしてはならない。」(4条2項)と規定されており,今回のケースは,この条文にある「粗野若しくは乱暴な言動を交えて」,「料金・・・の取立てをしてはならない」に違反した(疑いがある)というものですね(違反した場合の罰則は,「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」となっています)。
ところで,今回は「金払えなかったら(拳銃で)はじかれるぞ」などという言動があったために条例違反=犯罪,よって逮捕となりましたが,「ぼったくり」だけであった場合にはどうなっていたでしょうか。
都の条例には,「当該営業に係る料金について,実際のものよりも著しく低廉であると誤認させるような事項を告げ,又は表示すること。」(4条1項1号)を禁止する規定がありますので,例えば,実際には5万円かかるのに「5000円ポッキリ!」などと言って勧誘したような場合は,「実際のものよりも著しく低廉であると誤認させる」として,条例違反となる可能性があります(罰則は,同じく「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」です)。
そこまでいかなくても,実際の料金よりも安い金額を言って料金を誤信させて勧誘したような場合は,「詐欺罪」に該当するケースもあり得ると思います。
しかし,そういう事情もない場合に,単に「料金が高い」というだけで何らかの犯罪にあたるかというと,それはおそらく難しいだろうと思います(民事上は,例えば,「公序良俗違反」等により(飲食などについての)契約は無効であるとして,料金の支払いを争う(拒否する)余地はあるかもしれません)。
君子危うきに近寄らず。
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毎日新聞ネット版H26.9.28付き記事において,「民法の「離婚後300日規定」に伴う「無戸籍の人」が今月10日時点で,全国に少なくとも200人(うち18人が成人)いたことが法務省の実態調査で分かった」と報道されています。
この報道にある「民法の「離婚後300日規定」」とは,民法にある以下の条文のことをいっています。
民法772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
構造が少し分かりにくいですが,2項で「離婚の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定」され,1項で「婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定」されるため,離婚した後に生まれた子であっても,離婚日から300日以内である場合には元夫の子と推定されることになるのです。
そうすると,離婚後に子を出産した母親は,その子を元夫との子として出生届を提出しなければならない(そうでないと自治体窓口で受理されない。※)のですが,元夫の子として扱われることを回避したい事情(元夫以外の男性との子である等)があるような場合に,母親が出生届を提出せず,その結果,戸籍上はその子が存在していないという事態が生じることになります。
※ただし,平成19年5月に法務省から通達が出されており,「婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子について,「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ,民法第772条の推定が及ばないものとして,母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能」ということで,医師による証明があれば民法の推定規定を覆し,元夫の子としての出生届でなくとも受理されるようになっています。しかしながら,「民法772条による無戸籍児家族の会」ウェブサイトによれば,離婚後の妊娠であるにもかかわらず,医師による証明ができないケースがあるようであり,問題が完全に解決されたというわけではありません。
なお,「夫の子である」という推定を覆す方法としては,上記の医師による証明以外に,以下のような裁判による手続きがあります。
1 嫡出否認の訴え
2 親子関係不存在確認の訴え
3 強制認知の訴え
このうち,1は夫からしか提起できない訴えなので,夫にその意思がない場合や,「元夫には子が生まれたことを知られたくない」といった事情がある場合には難しいですね。
一方,2は子から夫に対して,3は子または母から血縁上の父に対して提起するものなので,夫の意思がどうであれ訴え提起が可能です。「元夫には子が生まれたことを知られたくない」という場合には,3を選択することになりますね。
ただし,訴えが認められるためには,「推定が及ばない事情」(例えば,妊娠した時期に夫は海外へ長期出張中であり性的関係を持つ機会がなかった等)を証明する必要があります。夫の協力を得ずにこのような証明をすることが,難しいケースもあるかもしれません。
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戸籍に記載がなければ住民票にも記載されず,日常生活においても,就学手続きに支障が生じる,運転免許証が取得できない,旅券が取得できない,選挙権が行使できない,婚姻届が受理されない(結婚できない)など,さまざまな不利益を被ることになります。
子には何の責任もないにもかかわらず,このような不利益が生じることは理不尽というほかなく,立法あるいは行政による早急な対応が望まれるところです。
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フランスでは,国内の小売書店を保護するため,アマゾン等のオンラインショップ(書店)が割引価格で販売する書籍については,無料での配送を禁止するという法律が成立したそうです(例えば,AFPBB News H26.6.27付き記事,The Huffington Post H26.6.27付き記事。これらの記事では「反アマゾン法」と呼称されています)。
他方,アマゾンはこの法律の適用を回避するため,配送料を1ユーロセント(約1.4円)に設定したそうです(AFPBB News H26.7.11付き記事)。
なんだかトンチ比べのようですが…。
ある産業・業界において,既存の事業者を保護するために参入規制をしたり,あるいは,業界内で過当な競争が生じないように料金等を統制したりということは,まま見られるところだと思いますが,そうした規制・統制によって得られる利益と,参入が阻害されたり,競争が制限されたりすることで失われる利益とがきちんと比較衡量されないと,単なる「既得権の保護」に堕してしまう危険がありますね。
さて,弁護士になるためには司法試験に合格し,司法修習を経ることが必要ですが,これは「参入規制」といえるでしょうか?(笑)
また,かつては,弁護士報酬について,日本弁護士連合会・各弁護士会が基準を定めていましたが,平成13年10月に公正取引委員会が策定・公表した「資格者団体の活動に関する独占禁止法上の考え方」において,
「(1)独占禁止法上問題となる場合
資格者団体が,
[1]会則に報酬に関する基準を記載することが法定されている場合において,
・定めた報酬額について値引きを禁止し,又は,値引きを報酬額の一定割合の範囲内と定めて報酬を収受させること
・報酬基準の設定が法定されている資格者の業務以外の業務に係る報酬についてまで基準を設定すること
[2]会則に資格者の収受する報酬に関する基準を記載することが法定されていない場合において,標準額、目標額等、会員の収受する報酬について共通の目安となるような基準を設定することにより,市場における競争を実質的に制限することは,独占禁止法第8条第1号の規定に違反する。また,市場における競争を実質的に制限するまでには至らない場合であっても,原則として独占禁止法第8条第4号の規定に違反する。」
という見解が示され,弁護士会が報酬基準を定めることは上記「考え方」に照らすと独禁法違反のおそれがあるということで,平成16年3月をもって基準が廃止され,以降は各弁護士が独自に報酬基準を決めています(とはいえ,多くの弁護士は廃止された報酬基準と同様の基準を用いていると思います)。
ただ,モノづくりと違って「製造原価」がある訳ではない(工夫すればサービス業でも算出できるのかもしれませんが・・・)ので,「サービスの内容・質に応じた適正な報酬」を決めるのはなかなか悩ましいことでもあるのです。
あれこれ考えていると,「請求する額の◯パーセント」という基準も,依頼者の方が得たい利益・価値の一定割合を頂戴しますよということで,まあ分かりやすくて合理的だよねと思ったり。
試行錯誤は続きそうです。
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