1987年(昭和62年)にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進マサチューセッツ工科大教授のチームが,いったん体験した出来事についての記憶が,それを思い出すときに変容してしまう過程をマウスで再現することに成功したそうです(H25.7.26日本経済新聞ネット版,H25.7.26GIGAZINEなど。後者のほうが詳しく説明されています)。
日経新聞記事では,「「冤罪(えんざい)を生み出す裁判の目撃証言が,いかにあやふやかを示したともいえる」としている」というチームのコメントも紹介されていました。
目撃証言の信用性が大きな問題となった事件として,「甲山事件」というものがあります。この事件は,ある施設で園児ふたりが浄化槽で溺死するという事故が起こった際,園児の目撃証言に基づき,施設に勤務する保育士が逮捕・起訴されたというものです。最終的に無罪で確定しましたが,判決が確定するまで実に20年以上を要しました(このときの園児の証言について考察したものとして,浜田寿美男「証言台の子どもたち―甲山事件 園児供述の構造」(日本評論社)があります)。
高木光太郎「証言の心理学―記憶を信じる、記憶を疑う」(中公新書)は,心理学の分野から記憶の変容についてアプローチした著作ですが,脳科学の分野においても研究が進むことで,記憶に基づく証言の信用性について,より慎重な吟味がなされるようになればよいと思いました。
弁護士櫻町直樹
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