厚生労働省が平成23年度の「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」を取り纏め,公表しました。
脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」については,労災補償が請求された件数は898件で前年度比96件の増であり,2年連続で増加。
また,「精神障害に関する事案の労災補償状況」についても,請求件数は1,272件で前年度比91件の増であり,3年連続で過去最高だったそうです。
労働災害にあった場合,労働者は労働基準監督署宛に「休業補償給付」などの請求をすることができます(ただし,休業補償給付は休業して4日目からの支給となっています。最初の3日間は休業補償給付の対象とはなりませんが,代わりに,会社が補償する責任を負います(労基法76条1項)。
ただし,給付の対象となる労働災害とは「業務に起因して」生じた負傷等をいい,業務とは無関係な原因による場合は,労働災害とは認められません。
通勤中に事故等にあった場合も給付対象となりますが,「移動の経路を逸脱し,又は移動を中断した場合には,逸脱又は中断の間及びその後の移動」については対象外となります。
どのようなときに「逸脱」となってしまうのかについて,裁判例では,「夕食の材料等を購入する目的で・・・交差点で左折し,自宅と反対方向にある商店に向かって四十数メートル歩行した際」に交通事故に遭ったという事案で,「就業場所と住居との間の通常の経路をそれたことは否定することができないし,また,その目的も,食事の材料等の購入にあって,住居と就業の場所との間の往復に通常伴いうる些細な行為の域を出ており,通勤と無関係なものであるというほかない」として労働災害(通勤災害)にはあたらないとしたものがあります(札幌高裁平成元年5月8日労判541号27頁)。
その程度の寄り道なんだから労災として認めてあげても・・・という気がしますが,「客観的なルール(法律)を厳格に解釈した予測可能性の高い判断」と,「ルールによりつつも,予測可能性を若干犠牲にし個別的解決を重視した判断」のいずれが妥当かというのは,一概には言えない問題ですね。
前者を重視しすぎれば,一方の当事者(労働者)にとって納得のいかない解決になりますし,他方で,後者を重視しすぎれば,ルール(法律)に基づく予測が困難となり,ルールを設けている意味がなくなりかねません。
と,少し話が固くなりましたが,自分の体力などをあまり過信せず,長時間労働のリスクを十分に認識しておく必要がありますね(時間外労働(残業)が2~6か月間の平均で月80時間を超えると,健康を害するリスクが高くなるとされています(厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」)。
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