相続税の課税対象,1200万世帯に倍増

という記事が平成26年7月27日付き日本経済新聞(ネット版)に掲載されていました(こちら→http://www.nikkei.com/money/features/69.aspx?g=DGXNASFS26013_26072014MM8000)。

平成27年1月1日以降に生じる相続については,平成25年度税制改正に伴う相続税法改正によって,これまで「5000万円+1000万円×法定相続人の人数」であった基礎控除額が,「3000万円+600万円×法定相続人の人数」に引き下げられるため,相続税の課税対象となるケースが拡大します。

上記日経記事に引用されている三井住友信託銀行の試算では,「夫婦・子ども2人」の4人家族を前提に,夫が死亡し妻と子ども2人が相続するとした場合(基礎控除額は3000万円+600万円×3人=4800万円),新たに590万世帯が課税対象となり,改正前の基礎控除額でも課税対象となる630万世帯とあわせて「1220万世帯」が,相続税の課税対象になるそうです。

そしてまた,新たに課税対象になる世帯は「三大都市圏が394万世帯で7割弱を占める」(上記日経記事)ということでした。これは,不動産(土地)の評価額が高くなる大都市圏においては,金融資産をそれほど保有していない場合でも,持ち家があれば課税対象になる可能性があるということですね。

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ちなみに,裁判所の統計によれば,平成24年度における遺産分割事件の総数は1万1737件にのぼっています(http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DKAJ42~43.pdf)。

また,申立認容または調停成立という解決に至るまでに要した期間について,遺産の価額が1000万円以下の場合では総数2849件のうち「(6か月を超え)1年以内」が914件で最も多く,「(1年を超え)2年以内」というケースも464件となっており,相続人間での遺産分割協議がうまくいかず,裁判(調停・審判)手続に委ねざるを得ないときは,相応の時間(と費用・手間)がかかることになります(http://www.courts.go.jp/sihotokei/nenpo/pdf/B24DKAJ51~52.pdf)。

お盆の時期には親族で集まることも多いでしょうから,相続が「争族」とならないよう,十分に話し合っておくことや,また,「遺言書」を作成して被相続人(遺産を残す人)の意思を明確にしておくこと(そして,それを相続人にも伝えておくこと)が重要です。

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弁護士 櫻町直樹
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精神障害の労災請求件数が1,409件(前年度比152件増)と過去最多

厚生労働省から,「平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」を公表」というプレスリリースが出されていました。

これによれば,記事タイトルのとおり,精神障害についての労災請求件数が1,409件(前年度比152件増)と過去最多となったそうです。

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精神障害についての労災請求が認められた率(認定率)は,平成25年度において36.5%(支給決定件数:436件/決定件数:1193件)となっており,前年平成24年度からは若干(2.5%)の減少となっています(資料はこちら)。

一方,脳・心臓疾患についての労災請求に関する認定率は,同じく平成25年度をみると44.8%(支給決定件数:306件/決定件数:683件)となっており(資料はこちら),精神障害についての労災請求のほうが認められにくい傾向にあるといえます。

また,精神障害についての労災請求につき,都道府県別の認定率をみると,岩手県と富山県が85.71%(いずれの県も支給決定件数:6件/決定件数:7件)と最も認定率が高く,他方,和歌山県,島根県,香川県が0%となっており,都道府県によって認定率にかなり差がみられます(ちなみに,全国平均の36.5%を下回る認定率の府県は,計19府県です)。

精神障害の原因となった事象別にみて支給決定件数の多いものは,以下のようになっています。

・仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(支給決定件数:55件)
・(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた(同:55件)
・悲惨な事故や災害の体験,目撃をした (同:49件)
・(重度の)病気やケガをした(同:46件)
・1か月に80時間以上の時間外労働を行った(同:34件)
・セクシュアルハラスメントを受けた (同:28件)

これによれば,長時間の(時間外)労働よりも,仕事内容・量の変化や,職場の人間関係から精神障害を発症するケースが多いことが分かります。

使用者としては,労働時間についてのみならず,きめ細かな労務管理に留意する必要があるといえそうです。

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改正DV法:同居の交際相手からの暴力に対し,保護命令51件

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律は,法改正によって法律婚・事実婚の関係にある当事者以外に,「生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係」(同法28条の2)にある場合も,相手方の暴力を原因とする保護命令(同法10条)の申立てが可能となりましたが,今年(平成26年)1月の施行から4月末までの間で既に51件,裁判所によって保護命令が発令されたそうです(例えば日経新聞H26.6.29付き記事)。

内閣府男女共同参画局ウェブサイトに掲載されている改正DV法についてのQ&Aによれば,「生活の本拠を共にする」といえるかどうかの判断は,「被害者と加害者が生活の拠り所としている主たる住居を共にする場合を意味するものとして考えています」とされています。

「生活の本拠」という文言(概念)は,他の法令においても用いられるものですが,具体的な判断にあたっては,「住民票の記載、賃貸借契約の名義、公共料金の支払名義等の資料から認定することができる場合はもとより,そのような資料が存在しない場合であっても,写真,電子メール,関係者の陳述等から生活の実態を認定し,「生活の本拠を共にする」と判断することになると思われます」(上記Q&A)との説明がされています。

客観的な資料がなくても,諦める必要はないということですね。上記日経新聞の記事には,「男からのメールに「帰ってこい」などと同居をうかがわせる内容があったため,撮影して証拠として提出」とありますが,例えば,フェイスブックなどSNSへの投稿記事も,証拠として有用性がありそうです。

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Airbnb:アイディアと法律の狭間

最近,自分の家(ないし部屋)を短期間貸し出して有効利用したい人と,そうしたところに宿泊したい人(旅行者等)をマッチングさせるというサービスが流行っているようですね。

例えば読売新聞には,「大進撃AirBnB,「家の短期レンタル」合法化へ」という記事がありました。

この記事で取り上げられているAirbnbの他にも,HomeAway9flats.comといったサイトがあるようです。

さて,上記記事のタイトルには「合法化へ」とありますが,「宿泊したい人に有料で家または部屋を短期間貸し出すこと」は違法なのでしょうか(なお,上記記事自体は,アメリカやヨーロッパ各国での動きについて述べられたものです)。

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まず問題になりそうなのが,「旅館業法」です。

旅館業法は,「この法律で「旅館業」とは,ホテル営業,旅館営業,簡易宿所営業及び下宿営業をいう」(法2条1項)とした上で,「この法律で「ホテル営業」とは,洋式の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。」(同条2項),「この法律で「旅館営業」とは,和式の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。」(同条3項),「この法律で「宿泊」とは,寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。」(同条6項)と規定しています。

そして,例えば東京都(多摩府中保健所)のサイトに掲載されている「旅館業のてびき」においては,「旅館業法の許可が必要な施設とは?」として,以下の4要件を満たすものは旅館業法の適用を受ける(=都道府県知事の許可が必要となる等の規制を受ける)と説明されています。

「1 宿泊料を受けていること(法第2条) ※宿泊料という名目で受けている場合はもちろんのこと,宿泊料として受けていなくても,電気・水道等の維持費の名目も事実上の宿泊料と考えられるので該当します。
2 寝具を使用して施設を利用すること(法第2条) ※寝具は,宿泊者が持ち込んだ場合でも該当します。
3 施設の管理・経営形態を総体的にみて,宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあるものと社会通念上認められること(厚生省生活衛生局指導課長通知昭和 61 年 3 月 31 日衛指第 44 号「下宿営業の範囲について」) ※宿泊者が,簡易な清掃を行っていても,施設の維持管理において,営業者が行う清掃が不可欠となっている場合も,維持管理責任が,営業者にあると考えます。
4 宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として営業しているものであること(厚生省生活衛生局指導課長通知昭和 61 年 3 月 31 日衛指第 44 号「下宿営業の範囲について」)」

上記のうち,旅行者に貸し出す場合は,原則として1,2及び4の要件を満たすことになると思われるので,問題は3の要件を満たすかどうかですが,例えば,Airbnbでは貸主が「清掃料金」について設定ができるようになっており(Airbnbで部屋を貸し出す手順を教えてください),清掃料金について「清掃料金とは,ゲストがチェックアウト後,リスティングをきれいに掃除するのにかかる経費を補うものです。」との説明がされている(清掃料金はどのように算出するのですか?)ことからすると,「宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあるものと社会通念上認められる」として,3の要件も満たすように思われます。※清掃料金を請求しない場合でも,短期間の滞在であれば,通常,貸し出した部屋の清掃は(貸出終了後に)貸主が行うと思われる(なお,「宿泊者が,簡易な清掃を行っていても,施設の維持管理において,営業者が行う清掃が不可欠となっている場合」も維持管理責任が営業者にあるとされている)ので,やはり,「衛生上の維持管理責任が営業者にある」となるように思われます。

以上みてきたところからすれば,「宿泊したい人に有料で家または部屋を短期間貸し出すこと」は,旅館業法の適用を受ける可能性がありそうです。

そして,旅館業法の適用を受ける場合は,都道府県知事の許可を受けなければならない(同法3条1項)のですが,旅館業法施行令では「ホテル営業」をする施設の構造設備基準について「客室の数は,10室以上であること」(施行令1条1項1号),同じく「旅館営業」について「客室の数は,5室以上であること」(施行令1条2項1号)と規定しているほか,客室の最低床面積,定員,フロント等,色々と満たすべき基準があります(上記「旅館業のてびき」参照)。

こうした基準を満たしていないと,旅館業法上求められる都道府県知事の許可が得られないことになり,許可なくしてホテル営業・旅館営業をしたときは,「6か月以下の懲役または3万円以下の罰金」(同法10条1号)が科される可能性があります。

また,賃借している部屋を第三者に貸し出す場合について,民法では「賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」(同法612条1項),「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。」(同条2項)と規定されているので,大家さんの承諾を得ずに貸し出した場合,賃貸借契約を解除されてしまう可能性があります。

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「自分の家(ないし部屋)を有効利用したい人」と,「宿泊費を安くあげたい(あるいは,その国の人と密な交流をしたい,日常生活を味わいたいといった理由もあり得ると思いますが)人」のニーズをうまくマッチングさせたサービスだと思いますが,貸主として利用する場合には,上述したようなリスクを考える必要がありそうです。

こういうケースが生じたときに,新しいビジネスモデル,サービスによってもたらされるベネフィット等と,それから生じるデメリット等を比較衡量して,迅速かつ適切に法令を制定あるいは修正(廃止)し,執行していくことが,立法府・行政府に期待されることではないかと思います。

と,念のため確認してみましたら,首相官邸ウェブサイトの「国家戦略特区ワーキンググループ 関係各省からのヒアリング」に,「滞在施設の旅館業法の適用除外,歴史的建築物に関する旅館業法の特例について」というヒアリング事項があり,これによれば,「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」という枠組みのもと,政令で定める一定の要件を満たすものとして都道府県知事の認定を受けたときは,旅館業法の適用を除外する方向で検討が進んでいるようです。

また,国家戦略特区ワーキンググループが作成した「国家戦略特区において検討すべき規制改革事項等について」では,「東京オリンピックの開催も追い風に,今後,我が国に居住・滞在する外国人が急増することが見込まれる。  こうした中で、外国人の滞在ニーズに対応する一定の賃貸借型の滞在施設について,30日未満の利用であっても,利用期間等の一定の要件を満たす場合は,旅館業法の適用を除外する。」とされています。

限定的ながら,近いうちに,日本国内においてもAirbnbのようなサービスを上述したようなリスクを考えることなく利用できるようになるかもしれませんね(ただし,旅館業法が適用除外となっても,賃借している物件を貸し出すときに大家さんの承諾を得る必要があるのはそのままなので,注意が必要です)。

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労働時間規制の緩和

最近,一定の専門職・管理職について,(法令による)労働時間の規制を緩和するという方向で政府が検討を進めています(例えば,msn産経ニュースH26.5.28付き記事「労働規制見直し,対象を議論 厚労省と民間議員が提案 競争力会議」)。

そもそも,なぜ労働時間に対する規制を緩和する必要があるのかという点については,例えば「産業競争力会議」の榊原定征議員(東レ株式会社 代表取締役取締役会長 今月3日には経団連会長に就任。)が,第14回産業競争力会議(H25.10.1開催)において「(略)企業の競争力を高めるためには,従来からの労働規制に捉われずに,メリハリを効かせられる柔軟な働き方を実現し、社員の活力と生産性向上を図っていくことが不可欠。労働時間に関し一挙に一律一様な規制緩和の適用が困難であるならば,特区で先行的に実施する,すなわち,濫用抑止とセーフティネットの確保を担保できる企業を見極めつつ,その企業に限定して特区での先行的な規制緩和を認めるやり方もあるのではないか。 」と述べている(「産業競争力会議議事要旨」より)ことからすれば,「企業の競争力を高めるため」と政府は考えているといえるでしょう。

しかし,「労働時間の規制を緩和すること」が,はたして「企業の競争力を高めること」につながるのでしょうか?

何をもって企業の「競争力」とするのか,それ自体いろいろと議論があると思いますが,例えば「労働生産性」は,「労働を投入量として産出量との比率を算出したもので,労働者1人あたり,あるいは労働者1人1時間あたりの生産量や付加価値」(日本生産性本部ウェブサイトより)とされていますので,労働生産性が高いほど,競争力が高いと一応はいえるのではないかと思います。

そこで日本の労働生産性をみてみると,日本生産性本部が作成・公表している「日本の生産性の動向 2013年版」によれば,日本の労働生産性(就業者1人あたりの名目付加価値)は,OECD加盟34カ国中21位(1位はルクセンブルク),また,就業1時間あたりでみると40.1ドルでイタリア(46.7ドル)やアイスランド(41.7ドル)と同水準,OECD加盟34カ国中20位となっています。

確かに,労働生産性が同一であれば,労働時間が長いほど生産量は大きくなり,したがって「競争力がある」といえるかもしれません。

しかし,それは単なる計算上の話であって,時間無制限で働くことは不可能ですし,長時間労働が続けば健康に悪影響を及ぼし,かえって生産性は落ちることでしょう(厚生労働省が作成している「過重労働による健康障害を防ぐために」というリーフレットでは,残業時間が月100時間を超える場合,または2か月~6か月の平均残業時間が80時間を超える場合は,健康障害のリスクが高まるとされています)。

労働時間の規制は,「賃金を払えば残業をさせてもよい」ということではなく,「残業はさせてはいけない。ただし,どうしても必要な場合には割増賃金を支払った上で,残業させることが許される(それも,一定限度まで)」ということなのであって,それからすれば,「残業代を払わずに無制限に働かせることができる」などというのは,労働時間規制の原則と例外を逆転,ありていに言えば「骨抜き」にするものに他ならないと思います(導入当初は職種等が限定されていても,いずれ拡大されるであろうことは労働者派遣法の例をみても明らかです)。

何より,人は「生産性を上げるため」に生きているのではなく,家族と過ごし,友人と語らい,趣味を楽しみ,地域のために活動するといった,様々なことのために生きているのではないでしょうか(もちろん,仕事・労働自体に価値があることを否定しているわけではありません)。

なお,上述したmsn産経ニュースH26.5.28付き記事は,安倍首相の「成果で評価される自由な働き方にふさわしい労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」という発言を伝えていますが,「成果」が,会社から示された目標を達成できたかどうかで計られるのであれば,それは「自由な働き方」とは程遠いものですし,また,かりに会社と労働者が協議して目標を決めるという仕組みであったとしても,会社が示す目標を労働者が拒否することは難しいでしょう。

「自由な働き方」をいうなら,労働者が過重な労働に苦しんだ末,過労死や過労自殺などに至ってしまうような労働環境を改善することが,まず政府がやるべきことなのではないでしょうか(この点では,過労死や過労自殺の防止対策を国の責務で実施すること等を定めた「過労死等防止対策推進法案」が,先月27日に衆議院で可決されました。毎日新聞H26.5.27付き記事など)。

関連エントリ:従業員の過労死:取締役の任務懈怠責任

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開所1年

本日は全国各地で真夏のような暑さでしたが,体調を崩されたりなどされていませんでしょうか。

久方ぶりの投稿となりますが,昨年(平成25年)6月1日,東京・九段下にパロス法律事務所を開所し,今日で丸1年を迎えることができました。
弁護士数が1万6000名を超える東京において,何とかここまでやってこれましたのも,ひとえに皆様のあたたかいご支援,ご指導の賜物であり,深く感謝申し上げます。

ご依頼者・ご相談者が抱える法的問題に対して,最善の解決策をご提供し,これを実現できるよう,これまで以上に研鑽を積んでいく所存です。

今後とも,ご支援,ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

平成26年6月1日 弁護士櫻町直樹

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安楽死の年齢制限撤廃:ベルギー

先日,脳死状態に陥った妊婦の生命維持という問題についての記事(「自己決定権と胎児の命」)を投稿しましたが,ベルギーでは,安楽死を選択できる年齢について,現在は「18歳以上」となっている制限が撤廃されるそうです(日本経済新聞H26.2.14付き記事)。

「安楽死」とは,一般に「不治の病(とそれに伴う痛み)に苦しむ人(患者)に対し,薬物等を用いることによって死に至らしめること」というように理解されていると思います(「日本尊厳死協会のウェブサイトでは,「安楽死は,医師など第三者が薬物などを使って患者の死期を積極的に早めることです。」と説明されています)。

現時点の日本においては,安楽死を認める法律はなく,刑法上は「殺人」として扱われます。

ただし,多発性骨髄腫に苦しむ患者に(心停止を引き起こす作用のある)塩化カリウムを注射して死亡させた医師が殺人罪に問われたケースで,裁判所は,一定の要件を満たす場合には「安楽死」として許容される(つまり,殺人ではあるが違法ではない)場合がある,と述べました(横浜地方裁判所平成7年3月28日判決・判例タイムズ877号148頁)。

その一定の要件とは,以下のとおりです。

  1. 患者が耐えがたい肉体的苦痛に苦しんでいること
  2. 患者は死が避けられず,その死期が迫っていること
  3. 患者の肉体的苦痛を除去・緩和するために方法を尽くし他に代替手段がないこと
  4. 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示があること

なお,この裁判例に先行して,脳溢血に苦しむ父に殺虫剤入りの牛乳を飲ませて死亡させた息子が,尊属殺人罪(かつては,尊属を殺したときの刑罰は「死刑または無期懲役」と,殺人の場合の「死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役」より重くなっていました。現在は,尊属殺人を一般の殺人より重罰とすることは憲法に違反するとの最高裁判決を受け,尊属殺人罪に関する条文(第200条)は削除されています)に問われたケースで,裁判所は,安楽死の要件について「医師の手によることを本則とし,これにより得ない場合には医師によりえない首肯するに足る特別な事情があること」と述べていました(名古屋高等裁判所昭和37年12月22日判決・判例タイムズ144号175頁)。

これに対し平成7年の横浜地裁判決では,「積極的安楽死が行われるには,医師により苦痛の除去・緩和のため容認される医療上の他の手段が尽くされ,他に代替手段がない事態に至っていることが必要であるということである。そうすると,右の名古屋高裁判決の原則として医師の手によるとの要件は,苦痛の除去・緩和のため他に医療上の代替手段がないときという要件に変えられるべきであり,医師による末期患者に対する積極的安楽死が許容されるのは,苦痛の除去・緩和のため他の医療上の代替手段がないときである」とされました。これをどのように解釈すべきかは難しいのですが,「医師の手による」という言葉が用いられなかった(あえて,他の表現に置き換えられた)ことからすれば,「苦痛の除去・緩和のため他に医療上の代替手段がないとき」であれば,医師の手によらないものであっても認められる余地がある,ということがいえるのではないかと思います。

日経記事によれば,ベルギーでも,安楽死が認められるにはいくつかの条件(患者の自発的判断,耐え難い苦痛など)を満たす必要があるようですが,「いったんは殺人罪に問われ(すなわち,起訴されて裁判を受ける),具体的な事情によっては違法性が阻却され罪に問われない(無罪となる)ことがある」(=日本)と,「一定の要件を満たせば,殺人罪に問われない(そもそも起訴もされず裁判を受けることがない)」(=ベルギー)とでは,安楽死への「心理的ハードル」が大きく異なると言えます。

もっとも,日経記事にもあるように,果たして年齢のそれほど高くない子が,安楽死について判断できるのかというのは,非常に難しい問題ですね(ただし,ベルギーでは,年齢制限を撤廃する代わりであるのか,「親の承諾」,「本人の判断能力の確認」も必要となるようです)。

自分が12歳くらいのときに,「安楽死も選択できる」と言われても,判断なんかできないだろうなあ,と思います。

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裁判傍聴

都立高校の生徒さんを引率して,東京地裁で刑事裁判を傍聴してきました。

この裁判傍聴は,東京弁護士会が実施している法教育プログラムの一環で,裁判傍聴を希望する団体を対象に,刑事裁判の手続き等について簡単に説明した上で,東京地裁でおこなわれている刑事裁判を傍聴し,その後質疑応答をおこなう,というものです(詳しくはこちらをご覧ください)。

裁判員裁判制度が導入され,裁判員として刑事裁判に関わる可能性が誰にでもある(※)現在では,刑事裁判についての知識・理解を得ておくに越したことはないのではないかと思います。※「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」では,「裁判員は,衆議院議員の選挙権を有する者の中から,この節の定めるところにより,選任するものとする。」(法第13条)と規定されており,衆議院議員の選挙権を有する者は,公職選挙法により「日本国民で年齢満二十年以上の者は,衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。」(法第9条1項)と規定されています。

とはいえ,裁判傍聴は「時間があるからちょっと行ってみようか」というにはハードルが高いと思いますので,身近で裁判傍聴の企画があるようなときには,是非参加してみていただければ。

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認知をした父は,認知無効を主張することができるか

少し前になりますが,時事通信に「認知者の無効請求可能=民法めぐり初判断-最高裁」という記事が掲載されていました。

これは,自分と血がつながっていないことを知りながら認知をした父が,認知してから数年後に,自分のした認知が無効であるとして裁判所に訴えを提起したという事案において,最高裁判所が「認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。」として,認知者による無効主張は許されるとした(その結果,認知は無効と認められた)ものです。

※民法786条「子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。」

なぜ,認知した本人による無効主張が問題になるのかといえば,民法785条では「認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。」と規定されており,この条文からすると,認知した本人についてはその無効を主張することができない,との解釈が成り立ちうるためです。

しかしながら最高裁は,「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,認知者が認知をするに至る事情は様々であり,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。」,「認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。」などとしてあっさり上記解釈を斥け,認知者本人による無効主張も許されるとしました。

ただし,最高裁は「具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能」とも判示しているので,事案によっては,認知者本人による無効主張が許されない場合もあるということになります。

なお,この事案は5人の最高裁判事によって判断されましたが,ひとりの最高裁判事が反対意見(多数意見と結論が異なるもの)を,また,もうひとりの最高裁判事が意見(多数意見と結論は同じだが,理由が異なるもの)を述べており,最高裁判事の間でも考え方が分かれている問題といえます(※ご興味のある方は裁判所ウェブサイトをご覧ください→http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140114111725.pdf)。

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弁護士 櫻町直樹
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自己決定権と胎児の命

脳死状態となった妊婦の尊厳死を望む家族が,(法律に基づき生命維持装置による延命を主張した)病院を相手取り,生命維持装置を外すよう求めた訴訟で,アメリカ・テキサス州の裁判所は家族の請求を認め生命維持装置を外すよう病院に命じたそうです(毎日新聞H26.1.27記事)。

アメリカでの類似ケースに,「カレン・クインラン(Karen Ann Quinlan)事件」として知られるケースがあります。

この事件は,薬物等の影響でいわゆる「植物状態」に陥り,人工呼吸器等によって生命が維持されていたカレン・クインランという女性(当時21歳)の両親が,意思決定のできない娘(カレン・クインラン)に代わって,治療内容(人工呼吸器を外すことも含む)を決定しうる後見人として自分たちを選任するよう裁判所に求めた,というものです。

ニュージャージー州最高裁判所は,両親の訴えを認め,父であるジョセフ・クインラン氏を後見人として選任するという決定をしました。そして,ジョセフ氏は人工呼吸器を外すという決断をし,カレン・クインラン氏の人工呼吸器は外されることになりました(詳細にご興味がある方は,カレン・クインラン記念財団のウェブサイトをご覧ください)。

今回のケースは,生命維持装置の取外しによって,胎児の生命が(も)奪われてしまうという点が,カレン・クインラン事件と異なるところです。

毎日新聞記事によれば,「妊婦は脳死状態になる前,強制的な延命措置は望まない考えを示して」いたとのことですので,テキサス州の裁判所は,妊婦の自己決定を尊重することによって胎児の生命が失われたとしてもやむを得ない,と考えたのでしょうか。

判決文をみてみないと何とも言えませんが,もし判決がそのような価値判断に基いているのだとすれば,自己決定権の尊重に傾きすぎているのではないか,という印象を受けます。

自己決定権の核心を,「決定の内容がどうであれ,自分自身で決定をなしうること自体に至上の価値があるのだ」というように考えたとしても,第三者の権利を侵害することの正当化まではできないように思うのですが,皆さんはどのように考えるでしょうか。

※なお,法律的には,出生後の人に比べ胎児は限定的な保護しか受けられないということがいえます。例えば,胎児について「殺人罪」(刑法199条)は成立せず,「堕胎罪」(刑法212条以下)が成立するにとどまります(殺人罪は死刑が科されることもありますが,堕胎罪の場合は最も重い不同意堕胎罪(刑法215条1項)で7年以下の懲役です)。また,民事上も,胎児には「権利能力」(権利・義務の享有主体となりうる地位)は認められず,ただし例外的に,不法行為に基づく損害賠償請求,相続,遺贈については「既に生まれたものとみます」として,権利能力が認められています(民法721条,同886条1項,同965条)。

 

弁護士櫻町直樹

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