ご当地ナンバー:その後

以前,「ご当地ナンバー」という記事を当ブログに投稿しましたが,朝日新聞デジタル版H26.10.29付き記事によれば,世田谷ナンバーの導入に反対する区民の方が,世田谷区及び保坂展人区長を相手取り,プライバシー侵害等を理由とする損害賠償請求訴訟を提起したそうです。

上記朝日新聞記事では,「「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益や,住居地を特定されることでプライバシーや平穏な生活が侵害される」と主張」と報道されていますが,さて,こうした主張について,裁判所はどう判断するのでしょうか。

訴訟において請求が認められるためには,前提として,原告(本件では世田谷区民の方)が主張する利益が,「法律上・契約上,認められている・合意されている」,あるいは(明文の法律がなくても)「法的保護に値する」ものである必要があります。

その点からいえば,「ブランド力のある品川ナンバーを使えなくなる不利益」については,心情的なものとしてはともかく,「法的保護に値する」といえるかというと,なかなか難しいのではないかと思います。

また,後者について,「プライバシー」という言葉が使われていますが,私的な事柄であればなんでもプライバシーとして法的保護の対象になるわけではなく,「一般の人々の感覚に照らして,公表されることを欲しない情報である」といった一定の条件(要件)が満たされていなければ,プライバシーとしての法的保護を受けることができません。

乗っている車のナンバーから,「あの車に乗っている人は世田谷区民である」と第三者に知られる(特定される)ことが,はたして,一般の人々の感覚に照らして望ましくないと判断されるものであるかどうか,こちらも,なかなか難しいのではないかと思います(また,プライバシーとして保護されるには,「一般の人に知られていない」ということも必要ですが,車両ナンバーはもともと公表といいますか,ナンバープレートに記載され周囲の人が認識できることを前提にしていますから,この点からしても難しいのではないかと思います)。

さて,どうなりますことやら。

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余談ですが,この訴訟に対して,保坂区長は「訴状が届いていないため,内容を確認でき次第コメントしたい」と述べたそうです(上記朝日新聞記事より)。

「訴状が届いていないため・・・」に続くフレーズは「・・・コメントできない」となるのが一般的ですが,内容を確認次第コメントするという保坂区長の姿勢は,(特に政治家という公的な立場にあることを考えると)異彩を放っていますね。

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弁護士 櫻町直樹

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ある米国人女性が選んだ「安楽死」

末期癌のため余命6か月と宣告された女性が,11月1日,医師から処方された薬物を服用して「安楽死」したとの報道がありました(朝日新聞ネット版H26.11.3付記事など)。

この女性,ブリタニー・メイナード(Brittany Maynard)さんは,脳にできた末期癌のため余命6か月と宣告された後,それまで住んでいたカリフォルニア州から,安楽死が法律(Death with Dignity Act)で認められているオレゴン州に移り,そこで死を迎えたそうです(The Washington Post “Brittany Maynard, as promised, ends her life at 29″ by Lindsey Bever, Nov. 2, 2014 )。

オレゴン州のDeath with Dignity Actは,そのまま日本語に訳せば「尊厳ある死についての法律」といったものになり,「尊厳死」について定めたもののようにみえますが,法律の内容をみると,医学的に治療・回復不能であり,余命6か月(以内)と診断された終末期の患者に対し,(当該患者の申請に基づき)医師が致死性の薬物を処方するための要件・手続等を定めたものになっていますので,直截に「自殺幇助法」と訳しているケースもみられます。

なお,Death with Dignity Actが認めているのは,医師に処方された薬物を患者自身が服用するという方法による死であり,医師が患者に薬物を注射して死に至らしめること(euthanasia)は,オレゴン州においても禁止されています(Frequently Asked Questions, Q: Does the Act allow euthanasia?)。

そして,オレゴン州の統計によれば,Death with Dignity Actに基づき,医師から薬物を処方され,これを服用して死亡したオレゴン州民の人数は,平成25(2013)年において71人(処方された人数は122人)であり,同法が施行された平成9(1997)年からの累計死亡者数は752人(処方された人数は1173人)となっています。

ブリタニーさんの件が注目を集め,日本でも報道されたのは,彼女が,Death with Dignity Actのような法律を他の各州も制定すべきという運動をしていた(米国内において,Death with Dignity Actのような法律が制定されているのは,オレゴン州を含め5州のみ),今年10月に動画投稿・配信サイト「you tube」に投稿された動画が大きな反響を呼んでいた,29歳という若さであった(オレゴン州においてDeath with Dignity Actに基づき安楽死を選択した人の平均年齢は71歳(69%が65歳以上,最年少で42歳。平成25年データ)),などの事情があったからかと思われます。

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日本においては,刑法202条に「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ,又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は,6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。」という規定がありますので,自殺を望んでいる者に致死性の薬物を渡すことは,自殺幇助罪にあたる可能性があります。

米国内においても,Death with Dignity Actに反対する意見は根強いようですが,はたして,日本において自殺幇助が合法化される日はくるのでしょうか。漠然とした印象に過ぎませんが,日本ではどちらかと言えば,延命治療を拒否する,いわゆる「尊厳死」に関心が集まり,安楽死(及びその合法化)についてはあまり議論がなされていないように思われます。

関連エントリ:「安楽死の年齢制限撤廃:ベルギー」,「自己決定権と胎児の命

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妊娠中 の軽易業務への転換を契機とした降格は,原則として均等法9条3項が禁ずる「不利益な取扱い」にあたる

非常に長いタイトルとなってしまいましたが,平成26年10月23日,最高裁判所は,妊娠中の労働者を軽易な業務へと配置転換するにあたり,転換を契機として当該労働者を降格させることは,原則として男女雇用機会均等法(以下「均等法」とします)9条3項が禁ずる「不利益な取扱い」にあたるとの判断を示しました(最高裁判所平成26年10月23日判決。以下「本判決」とします)。

均等法9条3項:事業主は,その雇用する女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働基準法第65条第1項 の規定による休業を請求し,又は同項 若しくは同条第2項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として,当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

本判決でも指摘されているように,厚生労働省が定める「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」(厚生労働省告示第614号)においては,「(均等)法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは,例えば,次に掲げるものが該当する。」として,
イ 解雇すること。
ロ 期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと。
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に,当該回数を引き下げること。
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
ホ 降格させること。
と,「降格」が不利益な取扱いの一例として挙げられています。

また,均等法施行規則2条の2第6号においては,均等法9条3項の「妊娠又は出産に関する事由」について,「労働基準法第65条第3項 の規定による請求をし,又は同項 の規定により他の軽易な業務に転換したこと。」と規定されています。

以上のような法令等の規定ぶりからすれば,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたるとした本判決は,至極妥当と思われます。

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しかし,私は,本判決のポイントはむしろ,一定の要件を満たす場合には,妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させることが,例外的に均等法9条3項の禁止する不利益な取扱いにあたらない,という判断が示された点にあるのではないか,と考えています。

すなわち,上でみた法令等の規定からは,妊娠中の軽易業務への転換を契機とする降格が例外的に認められる場合がある,という解釈は導かれないように思われるのですが,本判決は,1)「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」,または,2)「事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」は,例外的に降格が許される,としました。

最高裁判所がこのように判断したのは,法律を厳格に適用した場合には,企業(特に規模が小さい場合)の事業活動に支障が生じる事態も考えられることから,一定の要件を満たす場合には降格が不利益な取扱いにあたらないとすることによって,「労働者の権利保護」と「企業の円滑な事業活動」とのバランスを取ろうとした結果なのではないか,と思われるのです。

さらに,最高裁判所が均等法9条3項を「強行規定」であるとしながら,一定の要件を満たす場合には降格が無効にならない,とした点にも疑問が残ります。

なぜなら,ある条項が「強行規定」であるという場合,たとえ当事者の合意があったとしても,当該合意が有効とされることはないからです(例えば,禁止薬物の売買など)。

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もちろん,本判決が,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたると判断したこと自体は,妊娠している労働者に対する不当・不利益な処遇(いわゆる「マタハラ」)の横行に一石を投じるものであり,非常に価値ある判断だと思いますが,真に労働者の権利が保護されるためには,本判決が示した例外要件について,これらが安易に認められないようにしていくことが重要になってくるのではないかと思います。

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