先頃,東京都渋谷区が同性婚カップルに「パートナーシップ証明書」を発行すること等を内容とする条例を制定したとの報道がありました(日本経済新聞H27.3.31付き記事など)。
この条例は,「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」といい,「パートナーシップ」とは,「男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係をいう。 」と定義されています(条例2条8号)。
また,「パートナーシップ証明書」の発行に際して,区長は以下事項を確認するものとされています(条例10条2項)。
(1)当事者双方が,相互に相手方当事者を任意後見契約に関する法律(平成11年法律第150号)第2条第3号に規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契約に係る公正証書を作成し,かつ,登記を行っていること。
(2)共同生活を営むに当たり,当事者間において,区規則で定める事項についての合意契約が公正証書により交わされていること。
条例前文は,「日本国憲法に定める個人の尊重及び法の下の平等の理念に基づき,性別,人種,年齢や障害の有無などにより差別されることなく,人が人として尊重され,誰もが自分の能力を活かしていきいきと生きることができる差別のない社会を実現することは,私たち区民共通の願いである」という宣言から始まり,「区,区民及び事業者が,それぞれの責務を果たし,協働して,男女の別を超えて多様な個人を尊重し合う社会の実現を図り,もって豊かで安心して生活できる成熟した地域社会をつくることを決意し,この条例を制定する。」と結ばれています。
この条例に対しては,「憲法24条に違反している」との批判もされているようですが,憲法24条の規定から直ちに「憲法は同性婚を認めていない」という結論を導くことは難しいように思われます。
というのは,明治民法(明治31年6月21日法律第9号)においては,婚姻に際して「戸主」の同意が必要(法750条:家族カ婚姻又ハ養子縁組ヲ爲スニハ戸主ノ同意ヲ得ルコトヲ要ス)であるなど,個人の自由意思に基づく婚姻(及び家族の形成)が制限されていたこと,また,男性が女性より優位におかれていたこと等の状況に鑑み,現行日本国憲法において24条が規定されたと考えられているからです。
このことは,GHQが作成した日本国憲法草案(国立国会図書館ウェブサイトに掲載されています。)における,”instead of parental coercion, and maintained through cooperation instead of male domination.”(両親ノ強要ノ代リニ相互同意ノ上ニ基礎ツケラレ且男性支配ノ代リニ協力ニ依リ維持セラルヘシ)という表現にもあらわれていると言えると思います。
条例前文にもあるように,憲法第13条が「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。」と「個人の幸福追求権」を謳っていることからすれば,現行の社会制度において不利益を被っている個人がいるならば,その不利益を解消しようとする試みは,憲法に合致していると言えるのではないでしょうか(なお,憲法13条には「公共の福祉に反しない限り」として,憲法上の権利(人権)といえども制限されうることを認める表現がありますが,「公共の福祉」という概念は曖昧・不明確であり,人権の制約原理として適切でないという指摘(例えば,国連自由権規約委員会による「日本の第6回定期報告に関する最終見解」など)がされているところです)。
ちなみに,アメリカ合衆国においては,同性婚が憲法上保障された権利であるかどうかについて,近く,連邦最高裁判所の判断がなされるようです(朝日新聞H27.5.9付き記事。※全文の閲覧には会員登録が必要です)。
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