非常に長いタイトルとなってしまいましたが,平成26年10月23日,最高裁判所は,妊娠中の労働者を軽易な業務へと配置転換するにあたり,転換を契機として当該労働者を降格させることは,原則として男女雇用機会均等法(以下「均等法」とします)9条3項が禁ずる「不利益な取扱い」にあたるとの判断を示しました(最高裁判所平成26年10月23日判決。以下「本判決」とします)。
均等法9条3項:事業主は,その雇用する女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働基準法第65条第1項 の規定による休業を請求し,又は同項 若しくは同条第2項 の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として,当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
本判決でも指摘されているように,厚生労働省が定める「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」(厚生労働省告示第614号)においては,「(均等)法第9条第3項により禁止される「解雇その他不利益な取扱い」とは,例えば,次に掲げるものが該当する。」として,
イ 解雇すること。
ロ 期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと。
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に,当該回数を引き下げること。
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
ホ 降格させること。
と,「降格」が不利益な取扱いの一例として挙げられています。
また,均等法施行規則2条の2第6号においては,均等法9条3項の「妊娠又は出産に関する事由」について,「労働基準法第65条第3項 の規定による請求をし,又は同項 の規定により他の軽易な業務に転換したこと。」と規定されています。
以上のような法令等の規定ぶりからすれば,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたるとした本判決は,至極妥当と思われます。
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しかし,私は,本判決のポイントはむしろ,一定の要件を満たす場合には,妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させることが,例外的に均等法9条3項の禁止する不利益な取扱いにあたらない,という判断が示された点にあるのではないか,と考えています。
すなわち,上でみた法令等の規定からは,妊娠中の軽易業務への転換を契機とする降格が例外的に認められる場合がある,という解釈は導かれないように思われるのですが,本判決は,1)「当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」,または,2)「事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するとき」は,例外的に降格が許される,としました。
最高裁判所がこのように判断したのは,法律を厳格に適用した場合には,企業(特に規模が小さい場合)の事業活動に支障が生じる事態も考えられることから,一定の要件を満たす場合には降格が不利益な取扱いにあたらないとすることによって,「労働者の権利保護」と「企業の円滑な事業活動」とのバランスを取ろうとした結果なのではないか,と思われるのです。
さらに,最高裁判所が均等法9条3項を「強行規定」であるとしながら,一定の要件を満たす場合には降格が無効にならない,とした点にも疑問が残ります。
なぜなら,ある条項が「強行規定」であるという場合,たとえ当事者の合意があったとしても,当該合意が有効とされることはないからです(例えば,禁止薬物の売買など)。
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もちろん,本判決が,「妊娠のため軽易な業務に転換したことを理由とする降格」は,均等法9条3項にいう「不利益な取扱い」にあたると判断したこと自体は,妊娠している労働者に対する不当・不利益な処遇(いわゆる「マタハラ」)の横行に一石を投じるものであり,非常に価値ある判断だと思いますが,真に労働者の権利が保護されるためには,本判決が示した例外要件について,これらが安易に認められないようにしていくことが重要になってくるのではないかと思います。
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弁護士 櫻町直樹
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