Airbnb:アイディアと法律の狭間

最近,自分の家(ないし部屋)を短期間貸し出して有効利用したい人と,そうしたところに宿泊したい人(旅行者等)をマッチングさせるというサービスが流行っているようですね。

例えば読売新聞には,「大進撃AirBnB,「家の短期レンタル」合法化へ」という記事がありました。

この記事で取り上げられているAirbnbの他にも,HomeAway9flats.comといったサイトがあるようです。

さて,上記記事のタイトルには「合法化へ」とありますが,「宿泊したい人に有料で家または部屋を短期間貸し出すこと」は違法なのでしょうか(なお,上記記事自体は,アメリカやヨーロッパ各国での動きについて述べられたものです)。

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まず問題になりそうなのが,「旅館業法」です。

旅館業法は,「この法律で「旅館業」とは,ホテル営業,旅館営業,簡易宿所営業及び下宿営業をいう」(法2条1項)とした上で,「この法律で「ホテル営業」とは,洋式の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。」(同条2項),「この法律で「旅館営業」とは,和式の構造及び設備を主とする施設を設け,宿泊料を受けて,人を宿泊させる営業で,簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。」(同条3項),「この法律で「宿泊」とは,寝具を使用して前各項の施設を利用することをいう。」(同条6項)と規定しています。

そして,例えば東京都(多摩府中保健所)のサイトに掲載されている「旅館業のてびき」においては,「旅館業法の許可が必要な施設とは?」として,以下の4要件を満たすものは旅館業法の適用を受ける(=都道府県知事の許可が必要となる等の規制を受ける)と説明されています。

「1 宿泊料を受けていること(法第2条) ※宿泊料という名目で受けている場合はもちろんのこと,宿泊料として受けていなくても,電気・水道等の維持費の名目も事実上の宿泊料と考えられるので該当します。
2 寝具を使用して施設を利用すること(法第2条) ※寝具は,宿泊者が持ち込んだ場合でも該当します。
3 施設の管理・経営形態を総体的にみて,宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあるものと社会通念上認められること(厚生省生活衛生局指導課長通知昭和 61 年 3 月 31 日衛指第 44 号「下宿営業の範囲について」) ※宿泊者が,簡易な清掃を行っていても,施設の維持管理において,営業者が行う清掃が不可欠となっている場合も,維持管理責任が,営業者にあると考えます。
4 宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないことを原則として営業しているものであること(厚生省生活衛生局指導課長通知昭和 61 年 3 月 31 日衛指第 44 号「下宿営業の範囲について」)」

上記のうち,旅行者に貸し出す場合は,原則として1,2及び4の要件を満たすことになると思われるので,問題は3の要件を満たすかどうかですが,例えば,Airbnbでは貸主が「清掃料金」について設定ができるようになっており(Airbnbで部屋を貸し出す手順を教えてください),清掃料金について「清掃料金とは,ゲストがチェックアウト後,リスティングをきれいに掃除するのにかかる経費を補うものです。」との説明がされている(清掃料金はどのように算出するのですか?)ことからすると,「宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあるものと社会通念上認められる」として,3の要件も満たすように思われます。※清掃料金を請求しない場合でも,短期間の滞在であれば,通常,貸し出した部屋の清掃は(貸出終了後に)貸主が行うと思われる(なお,「宿泊者が,簡易な清掃を行っていても,施設の維持管理において,営業者が行う清掃が不可欠となっている場合」も維持管理責任が営業者にあるとされている)ので,やはり,「衛生上の維持管理責任が営業者にある」となるように思われます。

以上みてきたところからすれば,「宿泊したい人に有料で家または部屋を短期間貸し出すこと」は,旅館業法の適用を受ける可能性がありそうです。

そして,旅館業法の適用を受ける場合は,都道府県知事の許可を受けなければならない(同法3条1項)のですが,旅館業法施行令では「ホテル営業」をする施設の構造設備基準について「客室の数は,10室以上であること」(施行令1条1項1号),同じく「旅館営業」について「客室の数は,5室以上であること」(施行令1条2項1号)と規定しているほか,客室の最低床面積,定員,フロント等,色々と満たすべき基準があります(上記「旅館業のてびき」参照)。

こうした基準を満たしていないと,旅館業法上求められる都道府県知事の許可が得られないことになり,許可なくしてホテル営業・旅館営業をしたときは,「6か月以下の懲役または3万円以下の罰金」(同法10条1号)が科される可能性があります。

また,賃借している部屋を第三者に貸し出す場合について,民法では「賃借人は,賃貸人の承諾を得なければ,その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。」(同法612条1項),「賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは,賃貸人は,契約の解除をすることができる。」(同条2項)と規定されているので,大家さんの承諾を得ずに貸し出した場合,賃貸借契約を解除されてしまう可能性があります。

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「自分の家(ないし部屋)を有効利用したい人」と,「宿泊費を安くあげたい(あるいは,その国の人と密な交流をしたい,日常生活を味わいたいといった理由もあり得ると思いますが)人」のニーズをうまくマッチングさせたサービスだと思いますが,貸主として利用する場合には,上述したようなリスクを考える必要がありそうです。

こういうケースが生じたときに,新しいビジネスモデル,サービスによってもたらされるベネフィット等と,それから生じるデメリット等を比較衡量して,迅速かつ適切に法令を制定あるいは修正(廃止)し,執行していくことが,立法府・行政府に期待されることではないかと思います。

と,念のため確認してみましたら,首相官邸ウェブサイトの「国家戦略特区ワーキンググループ 関係各省からのヒアリング」に,「滞在施設の旅館業法の適用除外,歴史的建築物に関する旅館業法の特例について」というヒアリング事項があり,これによれば,「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」という枠組みのもと,政令で定める一定の要件を満たすものとして都道府県知事の認定を受けたときは,旅館業法の適用を除外する方向で検討が進んでいるようです。

また,国家戦略特区ワーキンググループが作成した「国家戦略特区において検討すべき規制改革事項等について」では,「東京オリンピックの開催も追い風に,今後,我が国に居住・滞在する外国人が急増することが見込まれる。  こうした中で、外国人の滞在ニーズに対応する一定の賃貸借型の滞在施設について,30日未満の利用であっても,利用期間等の一定の要件を満たす場合は,旅館業法の適用を除外する。」とされています。

限定的ながら,近いうちに,日本国内においてもAirbnbのようなサービスを上述したようなリスクを考えることなく利用できるようになるかもしれませんね(ただし,旅館業法が適用除外となっても,賃借している物件を貸し出すときに大家さんの承諾を得る必要があるのはそのままなので,注意が必要です)。

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弁護士 櫻町直樹
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労働時間規制の緩和

最近,一定の専門職・管理職について,(法令による)労働時間の規制を緩和するという方向で政府が検討を進めています(例えば,msn産経ニュースH26.5.28付き記事「労働規制見直し,対象を議論 厚労省と民間議員が提案 競争力会議」)。

そもそも,なぜ労働時間に対する規制を緩和する必要があるのかという点については,例えば「産業競争力会議」の榊原定征議員(東レ株式会社 代表取締役取締役会長 今月3日には経団連会長に就任。)が,第14回産業競争力会議(H25.10.1開催)において「(略)企業の競争力を高めるためには,従来からの労働規制に捉われずに,メリハリを効かせられる柔軟な働き方を実現し、社員の活力と生産性向上を図っていくことが不可欠。労働時間に関し一挙に一律一様な規制緩和の適用が困難であるならば,特区で先行的に実施する,すなわち,濫用抑止とセーフティネットの確保を担保できる企業を見極めつつ,その企業に限定して特区での先行的な規制緩和を認めるやり方もあるのではないか。 」と述べている(「産業競争力会議議事要旨」より)ことからすれば,「企業の競争力を高めるため」と政府は考えているといえるでしょう。

しかし,「労働時間の規制を緩和すること」が,はたして「企業の競争力を高めること」につながるのでしょうか?

何をもって企業の「競争力」とするのか,それ自体いろいろと議論があると思いますが,例えば「労働生産性」は,「労働を投入量として産出量との比率を算出したもので,労働者1人あたり,あるいは労働者1人1時間あたりの生産量や付加価値」(日本生産性本部ウェブサイトより)とされていますので,労働生産性が高いほど,競争力が高いと一応はいえるのではないかと思います。

そこで日本の労働生産性をみてみると,日本生産性本部が作成・公表している「日本の生産性の動向 2013年版」によれば,日本の労働生産性(就業者1人あたりの名目付加価値)は,OECD加盟34カ国中21位(1位はルクセンブルク),また,就業1時間あたりでみると40.1ドルでイタリア(46.7ドル)やアイスランド(41.7ドル)と同水準,OECD加盟34カ国中20位となっています。

確かに,労働生産性が同一であれば,労働時間が長いほど生産量は大きくなり,したがって「競争力がある」といえるかもしれません。

しかし,それは単なる計算上の話であって,時間無制限で働くことは不可能ですし,長時間労働が続けば健康に悪影響を及ぼし,かえって生産性は落ちることでしょう(厚生労働省が作成している「過重労働による健康障害を防ぐために」というリーフレットでは,残業時間が月100時間を超える場合,または2か月~6か月の平均残業時間が80時間を超える場合は,健康障害のリスクが高まるとされています)。

労働時間の規制は,「賃金を払えば残業をさせてもよい」ということではなく,「残業はさせてはいけない。ただし,どうしても必要な場合には割増賃金を支払った上で,残業させることが許される(それも,一定限度まで)」ということなのであって,それからすれば,「残業代を払わずに無制限に働かせることができる」などというのは,労働時間規制の原則と例外を逆転,ありていに言えば「骨抜き」にするものに他ならないと思います(導入当初は職種等が限定されていても,いずれ拡大されるであろうことは労働者派遣法の例をみても明らかです)。

何より,人は「生産性を上げるため」に生きているのではなく,家族と過ごし,友人と語らい,趣味を楽しみ,地域のために活動するといった,様々なことのために生きているのではないでしょうか(もちろん,仕事・労働自体に価値があることを否定しているわけではありません)。

なお,上述したmsn産経ニュースH26.5.28付き記事は,安倍首相の「成果で評価される自由な働き方にふさわしい労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」という発言を伝えていますが,「成果」が,会社から示された目標を達成できたかどうかで計られるのであれば,それは「自由な働き方」とは程遠いものですし,また,かりに会社と労働者が協議して目標を決めるという仕組みであったとしても,会社が示す目標を労働者が拒否することは難しいでしょう。

「自由な働き方」をいうなら,労働者が過重な労働に苦しんだ末,過労死や過労自殺などに至ってしまうような労働環境を改善することが,まず政府がやるべきことなのではないでしょうか(この点では,過労死や過労自殺の防止対策を国の責務で実施すること等を定めた「過労死等防止対策推進法案」が,先月27日に衆議院で可決されました。毎日新聞H26.5.27付き記事など)。

関連エントリ:従業員の過労死:取締役の任務懈怠責任

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弁護士 櫻町直樹
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開所1年

本日は全国各地で真夏のような暑さでしたが,体調を崩されたりなどされていませんでしょうか。

久方ぶりの投稿となりますが,昨年(平成25年)6月1日,東京・九段下にパロス法律事務所を開所し,今日で丸1年を迎えることができました。
弁護士数が1万6000名を超える東京において,何とかここまでやってこれましたのも,ひとえに皆様のあたたかいご支援,ご指導の賜物であり,深く感謝申し上げます。

ご依頼者・ご相談者が抱える法的問題に対して,最善の解決策をご提供し,これを実現できるよう,これまで以上に研鑽を積んでいく所存です。

今後とも,ご支援,ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

平成26年6月1日 弁護士櫻町直樹

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