毎日新聞ネット版H26.9.28付き記事において,「民法の「離婚後300日規定」に伴う「無戸籍の人」が今月10日時点で,全国に少なくとも200人(うち18人が成人)いたことが法務省の実態調査で分かった」と報道されています。
この報道にある「民法の「離婚後300日規定」」とは,民法にある以下の条文のことをいっています。
民法772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は,夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は,婚姻中に懐胎したものと推定する。
構造が少し分かりにくいですが,2項で「離婚の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定」され,1項で「婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定」されるため,離婚した後に生まれた子であっても,離婚日から300日以内である場合には元夫の子と推定されることになるのです。
そうすると,離婚後に子を出産した母親は,その子を元夫との子として出生届を提出しなければならない(そうでないと自治体窓口で受理されない。※)のですが,元夫の子として扱われることを回避したい事情(元夫以外の男性との子である等)があるような場合に,母親が出生届を提出せず,その結果,戸籍上はその子が存在していないという事態が生じることになります。
※ただし,平成19年5月に法務省から通達が出されており,「婚姻の解消又は取消し後300日以内に生まれた子について,「懐胎時期に関する証明書」が添付され,当該証明書の記載から,推定される懐胎の時期の最も早い日が婚姻の解消又は取消しの日より後の日である場合に限り,婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと認められ,民法第772条の推定が及ばないものとして,母の嫡出でない子又は後婚の夫を父とする嫡出子出生届出が可能」ということで,医師による証明があれば民法の推定規定を覆し,元夫の子としての出生届でなくとも受理されるようになっています。しかしながら,「民法772条による無戸籍児家族の会」ウェブサイトによれば,離婚後の妊娠であるにもかかわらず,医師による証明ができないケースがあるようであり,問題が完全に解決されたというわけではありません。
なお,「夫の子である」という推定を覆す方法としては,上記の医師による証明以外に,以下のような裁判による手続きがあります。
1 嫡出否認の訴え
2 親子関係不存在確認の訴え
3 強制認知の訴え
このうち,1は夫からしか提起できない訴えなので,夫にその意思がない場合や,「元夫には子が生まれたことを知られたくない」といった事情がある場合には難しいですね。
一方,2は子から夫に対して,3は子または母から血縁上の父に対して提起するものなので,夫の意思がどうであれ訴え提起が可能です。「元夫には子が生まれたことを知られたくない」という場合には,3を選択することになりますね。
ただし,訴えが認められるためには,「推定が及ばない事情」(例えば,妊娠した時期に夫は海外へ長期出張中であり性的関係を持つ機会がなかった等)を証明する必要があります。夫の協力を得ずにこのような証明をすることが,難しいケースもあるかもしれません。
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戸籍に記載がなければ住民票にも記載されず,日常生活においても,就学手続きに支障が生じる,運転免許証が取得できない,旅券が取得できない,選挙権が行使できない,婚姻届が受理されない(結婚できない)など,さまざまな不利益を被ることになります。
子には何の責任もないにもかかわらず,このような不利益が生じることは理不尽というほかなく,立法あるいは行政による早急な対応が望まれるところです。
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弁護士 櫻町直樹
内幸町国際総合法律事務所
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