「解雇しやすい特区」検討 秋の臨時国会に法案提出へ

朝日新聞H25.9.20付き記事によれば,安倍政権が推進する「国家戦略特区」プロジェクトのひとつとして,一定の要件(開業5年以内等)を満たす事業所においては,雇用契約で自由に解雇条件を定めることができ,また,一定の年収を超えている場合で,かつ,労働者が同意したときは,労働時間の上限規制(原則として1日8時間以内,1週間40時間以内)が適用されず,割増賃金をゼロにすることも可能,という特区の創設が検討されているそうです(なお,解雇規制の緩和については福岡県から提案があったようです。→http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/pdf/8-fukuoka.pdf)。

上記朝日新聞記事によれば,「働かせ方の自由度を広げてベンチャーの起業や海外企業の進出を促す狙い」とのことですが,そもそも,所定労働時間を超えた労働に対しては割増賃金を支払わなければならないと労働基準法が定めているのは,通常の労働時間を超えて働くことになる労働者への補償と,割増賃金という経済的負担を使用者に課すことによって,際限のない時間外労働を抑止することが目的です。

したがって,労働時間の規制をなくし,時間外労働手当を支払わなくてもよい,とすることは労働基準法の趣旨と真っ向から対立し,これを形骸化させるものです。

また,雇用契約で自由に解雇条件を定めることができるとした場合,使用者と労働者の交渉力の格差を考えれば,使用者の提示する解雇条件を労働者が拒否することは,極めて難しいといってよいと思います。

さらに,特区での「成功事例」については,全国的に制度化することも視野に入れられています(→http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/pdf/concept.pdf)。そうすると,特区内だけであった労働基準法の「形骸化」が,全国レベルで生じることになります。

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「国家戦略特区は,地域の発意に基づく従来の特区制度とは異なり,国が主体的にコミッ
トをし、国・地方自治体・民間が三者一体となって,国の経済成長に大きなインパクトを与え
るプロジェクトに取り組むもの」(「国家戦略特区」に関する提案募集要項)だそうですが,はたして,「解雇規制緩和」や「労働時間規制緩和」が,この社会に活力を取り戻すための処方箋たりうるのか,疑問が残ります。

ここで,日本の「(就業者1人あたり)労働生産性」をみてみると,OECD加盟34か国中19位となっており,決して高い数字ではありません(日本生産性本部「労働生産性の国際比較」 ちなみに1位はルクセンブルクです)。

労働時間規制をなくし長時間労働を可能にした場合,生産性向上に一定の効果はあるでしょうが,無限に労働できるわけではないですから自ずと限界があります(また,時間外労働がおおよそ1か月あたり80時間を超える場合は,健康を害するリスクが高まるとされています。→http://kokoro.mhlw.go.jp/brochure/worker/files/H22_kajuu_kani.pdf)。

経済成長を否定するわけではありませんが,それは,ひとりひとりの労働者の犠牲の上に成り立つようなものであってはならないはずです。

特区創設にあたっては,慎重な審議を期待したいところです。

 

弁護士櫻町直樹

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