少し前になりますが,時事通信に「認知者の無効請求可能=民法めぐり初判断-最高裁」という記事が掲載されていました。
これは,自分と血がつながっていないことを知りながら認知をした父が,認知してから数年後に,自分のした認知が無効であるとして裁判所に訴えを提起したという事案において,最高裁判所が「認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。」として,認知者による無効主張は許されるとした(その結果,認知は無効と認められた)ものです。
※民法786条「子その他の利害関係人は,認知に対して反対の事実を主張することができる。」
なぜ,認知した本人による無効主張が問題になるのかといえば,民法785条では「認知をした父又は母は,その認知を取り消すことができない。」と規定されており,この条文からすると,認知した本人についてはその無効を主張することができない,との解釈が成り立ちうるためです。
しかしながら最高裁は,「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,認知者が認知をするに至る事情は様々であり,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。」,「認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。」などとしてあっさり上記解釈を斥け,認知者本人による無効主張も許されるとしました。
ただし,最高裁は「具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能」とも判示しているので,事案によっては,認知者本人による無効主張が許されない場合もあるということになります。
なお,この事案は5人の最高裁判事によって判断されましたが,ひとりの最高裁判事が反対意見(多数意見と結論が異なるもの)を,また,もうひとりの最高裁判事が意見(多数意見と結論は同じだが,理由が異なるもの)を述べており,最高裁判事の間でも考え方が分かれている問題といえます(※ご興味のある方は裁判所ウェブサイトをご覧ください→http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20140114111725.pdf)。
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弁護士 櫻町直樹
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