労働時間規制の緩和

最近,一定の専門職・管理職について,(法令による)労働時間の規制を緩和するという方向で政府が検討を進めています(例えば,msn産経ニュースH26.5.28付き記事「労働規制見直し,対象を議論 厚労省と民間議員が提案 競争力会議」)。

そもそも,なぜ労働時間に対する規制を緩和する必要があるのかという点については,例えば「産業競争力会議」の榊原定征議員(東レ株式会社 代表取締役取締役会長 今月3日には経団連会長に就任。)が,第14回産業競争力会議(H25.10.1開催)において「(略)企業の競争力を高めるためには,従来からの労働規制に捉われずに,メリハリを効かせられる柔軟な働き方を実現し、社員の活力と生産性向上を図っていくことが不可欠。労働時間に関し一挙に一律一様な規制緩和の適用が困難であるならば,特区で先行的に実施する,すなわち,濫用抑止とセーフティネットの確保を担保できる企業を見極めつつ,その企業に限定して特区での先行的な規制緩和を認めるやり方もあるのではないか。 」と述べている(「産業競争力会議議事要旨」より)ことからすれば,「企業の競争力を高めるため」と政府は考えているといえるでしょう。

しかし,「労働時間の規制を緩和すること」が,はたして「企業の競争力を高めること」につながるのでしょうか?

何をもって企業の「競争力」とするのか,それ自体いろいろと議論があると思いますが,例えば「労働生産性」は,「労働を投入量として産出量との比率を算出したもので,労働者1人あたり,あるいは労働者1人1時間あたりの生産量や付加価値」(日本生産性本部ウェブサイトより)とされていますので,労働生産性が高いほど,競争力が高いと一応はいえるのではないかと思います。

そこで日本の労働生産性をみてみると,日本生産性本部が作成・公表している「日本の生産性の動向 2013年版」によれば,日本の労働生産性(就業者1人あたりの名目付加価値)は,OECD加盟34カ国中21位(1位はルクセンブルク),また,就業1時間あたりでみると40.1ドルでイタリア(46.7ドル)やアイスランド(41.7ドル)と同水準,OECD加盟34カ国中20位となっています。

確かに,労働生産性が同一であれば,労働時間が長いほど生産量は大きくなり,したがって「競争力がある」といえるかもしれません。

しかし,それは単なる計算上の話であって,時間無制限で働くことは不可能ですし,長時間労働が続けば健康に悪影響を及ぼし,かえって生産性は落ちることでしょう(厚生労働省が作成している「過重労働による健康障害を防ぐために」というリーフレットでは,残業時間が月100時間を超える場合,または2か月~6か月の平均残業時間が80時間を超える場合は,健康障害のリスクが高まるとされています)。

労働時間の規制は,「賃金を払えば残業をさせてもよい」ということではなく,「残業はさせてはいけない。ただし,どうしても必要な場合には割増賃金を支払った上で,残業させることが許される(それも,一定限度まで)」ということなのであって,それからすれば,「残業代を払わずに無制限に働かせることができる」などというのは,労働時間規制の原則と例外を逆転,ありていに言えば「骨抜き」にするものに他ならないと思います(導入当初は職種等が限定されていても,いずれ拡大されるであろうことは労働者派遣法の例をみても明らかです)。

何より,人は「生産性を上げるため」に生きているのではなく,家族と過ごし,友人と語らい,趣味を楽しみ,地域のために活動するといった,様々なことのために生きているのではないでしょうか(もちろん,仕事・労働自体に価値があることを否定しているわけではありません)。

なお,上述したmsn産経ニュースH26.5.28付き記事は,安倍首相の「成果で評価される自由な働き方にふさわしい労働時間制度の新たな選択肢を示す必要がある」という発言を伝えていますが,「成果」が,会社から示された目標を達成できたかどうかで計られるのであれば,それは「自由な働き方」とは程遠いものですし,また,かりに会社と労働者が協議して目標を決めるという仕組みであったとしても,会社が示す目標を労働者が拒否することは難しいでしょう。

「自由な働き方」をいうなら,労働者が過重な労働に苦しんだ末,過労死や過労自殺などに至ってしまうような労働環境を改善することが,まず政府がやるべきことなのではないでしょうか(この点では,過労死や過労自殺の防止対策を国の責務で実施すること等を定めた「過労死等防止対策推進法案」が,先月27日に衆議院で可決されました。毎日新聞H26.5.27付き記事など)。

関連エントリ:従業員の過労死:取締役の任務懈怠責任

弁護士櫻町直樹

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