しばらくぶりの投稿です。9月に入りましたがまだまだうだるような暑さが続きますね。
国土交通省が先月,いわゆる「ご当地ナンバー」の導入地域を発表(ご当地ナンバー(第2弾)の導入地域の決定について)しましたが,世田谷区に居住する71名の方が,「世田谷ナンバー導入は違法」として,国に対し導入取消しを求める訴訟を提起したとの報道がありました(H25.9.3時事通信記事)。
このような,国を相手方(被告)として,国のした行為を争う訴訟は「行政事件訴訟」と呼ばれますが,行政事件訴訟の場合は,訴訟として裁判所に審理してもらうためにいくつかのハードルをクリアする必要があります。
上記時事通信の報道によれば,「導入取り消しを求める訴訟」とありますので,提起された訴訟が「処分の取消しの訴え」(行政事件訴訟法3条2項)であることを前提にすると,まず,処分の取消しの訴えの対象にできるのは「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同項)となっています。
「処分その他公権力の行使」と言われても何がなんやらという感じですが,最高裁判所は「処分」という概念について,「行政庁の処分とは,所論のごとく行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によつて,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」と述べています(最高裁判所昭和39年10月29日判決民集18巻8号1809頁)。
ますますこんがらがってしまうかもしれない最高裁の定義ですが,例えば,飲食店の営業許可や営業停止命令などが,典型的な「処分」にあたるといえます。
ひるがえって,国土交通省のご当地ナンバー導入決定という行為をみた場合,はたして「直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定する」といえるのか,例えば,「自分の意思によらず世田谷ナンバーをつけなければならない」とみれば,「義務を形成」といえるように思えるものの,一方で,ナンバープレート(自動車登録番号標)を自動車につけなければならないこと自体は道路運送車両法19条で定められているので,「ご当地ナンバーの導入は,ナンバープレートに記載される運輸支局を表示する文字を変更するだけ」とみれば,「義務を形成」とまではいえないようにも思える,ということで,なかなか一筋縄ではいかないように感じられます。
他にも,行政事件訴訟の場合には「原告適格」の問題があったり,訴訟としては難易度が高い類型に属するので,「ご当地ナンバー訴訟」の原告側(世田谷区の住民の方々)がどういった主張を組み立てて上記のような問題をクリアしている(しようとしている)のか,非常に興味深いところです。
なお,国土交通省の「訴状が届いていないので,コメントできない」とのコメント,訴訟が提起された際の被告側(訴えられた方)のコメントとしてよく目・耳にすると思いますが,訴訟を提起する場合,具体的には「訴状」という書類(他にも書類を添付しますが)を裁判所に提出するということになります。
そして,裁判所は提出された訴状等書類一式について,形式的な不備はないか,(残業代請求等であれば)計算間違いはないか等をチェックし,その後,被告へ訴状等一式を送ることになります。
なので,訴状が提出された直後に,被告にコメントを求めても「訴状が届いていないので・・・」というフレーズが返ってくるわけです(といっても,訴状が届いたタイミングでコメントを求めても,「内容を精査していないのでコメントできない」とかになるんでしょうね(笑))。
弁護士櫻町直樹
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